「驚きや混乱等で体が動かなかった」不同意性交罪の認知件数が急増 「同意・不同意」認識の不一致を誘発する忌まわしき“神話”とは
トラブル回避には現場での「状態」見極めが肝要
被害者の立場を悪用し、金銭目的で相手をおとしめるため、虚偽の申告をする。報道等ではこうしたケースも目につくが、実際にはごく一部である可能性が高い。そうした実状も踏まえ、密室での行為ゆえの不同意性交罪で不本意にトラブルに巻き込まれないために必要なことは「冷静さだ」と力説するのは加害者側の弁護実績も豊富な荒木謙人弁護士だ。 「不同意性交罪では、相手方の“状態”がどうであったかが犯罪の成否に関わります。そうである以上、相手方と性的な行為をする際には、適切にコミュニケーションを取り、どのような状態であるかを冷静に判断する必要があります。 知り合って日が浅い関係の相手だけでなく、長く交際している恋人同士や夫婦間であったとしても、相手方の状態によっては、犯罪が成立する可能性があることに注意が必要です」 密室での行為に加え、レイプ神話のような背景もあり、被害者側が告発しづらい――。ここに不同意性交罪における、「同意・不同意」不一致の根源が潜んでいそうだ。
データが示す日本の被害者が自分を責めがちな傾向
それを裏付けるデータがある。前述した、レイプ神話受容度を測定する「REAL尺度」の測定結果の日米比較だ。 20項目からなるREAL尺度は、性犯罪全体の9割以上が、男性が加害者、女性が被害者である実態に即して作成されている。それぞれ「0:全く当てはまらない」から「4:非常に当てはまる」の5段階評価で計80点。得点が高ければ高いほど、レイプ神話の受容度が高いとされる。 日本のREAL尺度得点では、女性より男性の方が6点以上高く、男女全体の得点を見ると、アメリカで実施した結果に比べて約7倍も高いことが明らかになっている。 そのほか、アメリカで実施した結果には世代による得点の差はみられなかったが、日本では他世代に比べ若い世代(18~29歳)の得点が高いことが判明した。 この結果は、日本人は米国人に比べ、レイプ神話を受けいれる傾向が高く、それゆえ性被害にあっても、自身の非を責める傾向にあることを示している。 佐々木氏は「日米のREAL得点がこれ程までに違うことに非常に驚くとともに、極めて深刻なこの状況を、早急に改善しなければならないと思った」としたうえで、次のように展望を語った。 「REAL得点を下げることが性犯罪被害を減らすことと直結するのかはわかりません。実際に、アメリカの方がREAL得点は低いですが性犯罪の被害者の割合は多いのが現状です。 これは元々の治安の問題もあると思いますが、正しい性被害の知識を持つことで、自分に起きた出来事を過小評価せずに性被害に遭ったと訴え出ることから、性被害だと認知される件数が増えているという側面もあります。 一概には言えない問題ですが、性被害に関する偏見をなくす(REAL得点を下げる)ための1つとして、REAL得点が高い若年層に対して教育をすることが必要だと考えています。 アメリカでは連邦政府の援助を受ける学校や教育機関に対し、性によるハラスメントやその他の差別から人々を守るための教育プログラムを実施することを義務づけています。 日本においても、多くの人々がこのREAL尺度を利用して自分自身の性犯罪に関する誤った信念や固定観念を認識できるように、学校教育などで学ぶ機会を持つことが必要だと考えます」
弁護士JP編集部