「驚きや混乱等で体が動かなかった」不同意性交罪の認知件数が急増 「同意・不同意」認識の不一致を誘発する忌まわしき“神話”とは
被害者―加害者間に溝が生じる背景
なぜ性加害の現場で、被害者と加害者の間にこれほどの“行き違い”が生じるのか。 レイプ被害者、加害者、レイプ行為そのものに関する性犯罪特有の誤った信念や固定観念をどの程度受容しているかを測定できるREAL尺度(※)の日本語版を開発した、千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任研究員の佐々木利奈氏は次のように考察する。 ※Hahnel-Peeters と Goetz が2022年に作成したレイプ神話受容度を測定する、性暴力を言い訳にする態度と言葉の尺度 「日本で実施したREAL尺度を用いた調査の結果によると、性犯罪に対する誤った認識の心理的特徴として、2つのグループに分けられます。『事実を過小評価して性犯罪ではないとする心理』『暗黙の同意が得られていると信じてしまい性犯罪に該当しないと考える心理』の2つです。 前者は、言い換えれば、行為を被害者の責任にして、加害者は責任がないと(過小評価)することだと思います。 具体的には、防衛策を100%取っていない(加害者と2人きりになった)と思われるケースや、拒否を力の限りしていない(声を上げる、逃げる、力づくで拒否をする)場合などは、被害者の責任分が割り引かれて過小評価されることになっていると思います。 実際は、命の危険や急な事態で身体が硬直してしまい、拒否の行動を取れないこと(強直性不動)が多くあることは各種結果で証明されてきています。 後者に関しては、言い換えれば、違った問題を同意と同じ意味であるとすり替えて、やはり被害者に責任を負わせる行為です。 具体的には、たとえば好意があることや2人きりになること等と性的関係を持つことは全く違うことですが、この違いを明確にしておらず、相手から「好意があるから同意があった」と捉えられてしまうと、被害者が責められることが多くなります」
背景には「レイプ神話」も
佐々木氏は、当事者がこうした歪んだ捉え方になりがちな背景として「レイプ神話」があるという。レイプ神話は性暴力の被害者を非難したり、加害者を擁護したりする誤った信念や偏見のこと。用語としては1970年代のフェミニズム運動の頃から使われている。 代表的なものとして、たとえば「もし女性がはっきりとノーを言わなければ、性犯罪と主張できない」や「もし女性が男性と2人きりで部屋に入ったら、女性は性行為に同意している」等がある。 そのうえで佐々木氏は性加害事件で、特に被害者が女性の場合、誰にも相談できず抱え込んでしまう心理を次のように推察する。 「レイプ神話を強く信じている人ほど、『自分に起こったことは自衛ができていなかった』『暗黙の同意と捉えられる行為をしてしまった』『自分に落ち度があった』と感じて相談できないことが多くなってしまうのだと思います」 一方で、タレントやアスリートが性加害事件に巻き込まれた場合、告発した被害者にバッシングが浴びせられるケースも珍しくない。 佐々木氏はこの点について、「弁護士等司法の立場の方ですと、被害者がハニートラップのような形で金銭を要求するなどという明らかに故意に被害者側が相手をおとしめようとする事例を平均よりも多く見ていることが予想されます。しかし、国内における明確なデータはないのですが、米国での論文結果によると、実際に虚偽申告であるケースは10%未満です」と話す。