自動運転の社会実装、科学技術の普及をリアルタイムで実感できる好機
物流・運輸業界の「2024年問題」や地方のバス路線の縮小など、交通事情は激変の時代を迎えている。その対応策として期待されるのが、自動運転の社会実装だ。自動運転車の研究開発は国内外で着実に進展してきた一方で、新型コロナウイルスの流行を受けた実証実験の停止なども報じられ、勢いがやや陰りつつあるという指摘もある。技術としての自動運転は今どのように活用され、今後どう進展していくのだろうか。5月18日に開催された「自動運転ってなぁに? ~みんなで考えよう自動運転がある未来~」での議論をレポートする。
このパネルディスカッションは、持続可能な未来の都市モデルを東京から発信することを目的とするイベント「SuShi Tech Tokyo」における催しの一環として、有明アリーナ(東京都江東区)で行われた。司会はモータージャーナリストの竹岡圭(たけおか けい)氏が務め、5人のパネリストを交えて活発な議論が行われた。
「認知」「判断」「操作」のサイクルをスムーズに
まず、産業技術総合研究所招聘研究員で、自動車の開発に技術者として携わってきた加藤昌彦(かとう まさひこ)さんが、自動運転にまつわる技術動向とその現状について話題提供した。そもそも運転という動作は、走行環境の「認知」、それを踏まえての「判断」、その後の「操作」で構成されるサイクルを回して行われている。人間が車を運転する際に行うこれらの動きすべてを機械が代行することが、自動運転と定義される。 3つの動作をスムーズに行うには、車の周囲360度すべてについて、常に情報を集めなければならない。自動運転車でその役割を担うのは、車体に取り付けられたセンサーだ。具体的には周囲の障害物の形状を判定するためのカメラや、それらとの距離を電波や光などを使って測るためのレーダーなどがある。これらを通して収集した情報をもとに、安全かつスムーズに走るための走行計画を立てることが、自動運転における「判断」に該当する。 次いで加藤さんは自動運転のレベルが、0~5までの6段階に分けられている点について説明。なかでも大きな分岐点となるのがレベル3に相当する「条件付運転自動化」だ。レベル3以降では、運転の主体が「人間」から「システム(機械)」に変わり、人間は運転以外のことができるようになる。加えて、運転にかかる責任も人間が負う必要がなくなるという点で、重要な境目といえるだろう。 加藤さんは自動運転の技術そのものについて『あくまでも安全の確保や自由な移動などの目的や、社会課題を達成する手段』と位置づける。そのうえで、将来の社会実装に向けて重要になってくるポイントとして、法規、責任の所在、社会受容性をキーワードとして挙げ、自身の話題提供を締めくくった。