自動運転の社会実装、科学技術の普及をリアルタイムで実感できる好機
データをどう生かすかが開発トレンド
自動運転車の実社会における活用例を紹介したのは、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社パートナーの大塚泰子(おおつか たいこ)さん。キーワードとして挙げたのは2010年代後半以降、自動車業界のトレンドとなっている「CASE」という言葉だ。 CASEとは「Connected(コネクテッド)」「Automated/Autonomous(自動運転)」「Shared & Service(シェアリング)」「Electrification(電動化)」の4つの頭文字をとった造語で、自動車業界の将来を示す考え方として2016年前後から提唱されている。 なかでも特に重要とされるのが、自動車がスマートフォンのように、常時インターネットに接続している状況を指す「Connected」だ。車の機能でいうと、走行地点や近隣にある飲食店や名所がカーナビに適宜表示されたりすることに該当する。また、最近では人間の運転の癖を分析し、アクセルやブレーキなどの傾向に応じて、保険金の額が調節されるようにもなっているという。 さらに大塚さんは、自身が居住していた米国・サンフランシスコで、レベル4に相当する「ロボタクシー」が運用されていることも紹介。ライドシェアを含めてさまざまな用途に活用されているという。 このように、車そのものというよりも、車を通じて得られたデータをどう生かすかが、近年の自動車産業の開発トレンドとなっている。ビジネスにおけるそうした動きの軸としても、自動運転は期待されそうだ。
茨城ではバスが住民の足として定着
日本における自動運転の社会実装の事例を紹介したのは、茨城県境町の町長を務める橋本正裕(はしもと まさひろ)さん。境町は、2020年に町内を循環する自動運転バス「ARMA(アルマ)」を導入した自治体として知られる。レベル3の自動運転に対応可能なARMAは、導入以来もらい事故1件を除いて無事故での運用を継続。住民の足として定着し、現在に至るまで親しまれている。 橋本さんによると、ARMA導入の背景には、境町の地域特有の交通事情があったという。境町では域内に電車の駅が存在しないこともあり、タクシーや福祉循環バスを運用してきたが、設備の老朽化やコストなどが課題となっていた。一方で高齢化が進み、免許を返納する高齢者も多かったことから、生活のための公共交通を維持する必要にも迫られていたという。 自動運転車について『今すぐには必要かどうかはわからないが、5年後10年後に確実に必要になるという意識』(橋本さん)が住民間でも広まったのが、導入への後押しとなった。導入後も、バス停や待避所のための土地の提供など、さまざまな形で住民からの協力が得られ、 2024年9月時点で累計の乗車人数は3万人を突破した。一般市民の理解が、科学技術の社会実装を後押ししたケースといえる。