自動運転の社会実装、科学技術の普及をリアルタイムで実感できる好機
「シビックプライド」は幸福度も上げる
では、自動運転バスが導入後も境町で受け入れられている背景には何があるのだろうか。その要因について報告したのは、筑波大学大学院システム情報工学研究科教授の谷口綾子(たにぐち あやこ)さん。都市計画が住民の心理に与えるさまざまな影響を研究してきた谷口さんは、自動運転バスの導入が境町の住民の「シビックプライド」にどのように関わっているかを紹介した。 シビックプライドとは、ある特定の地域に居住したり働きに来たりする人々が、その場所をどの程度誇りに思っているかを示す指標。地域住民の当事者意識、引いては町づくりの改善に向けた意欲を測る目安ともなり得るため、都市計画を考える際の重要な要素として、近年注目されている。 ARMA導入の1年後に谷口さんが境町の住民を対象に実施したアンケート調査では、自動運転バスは地域の催しや政策を含めた30の調査項目のなかで、「知名度」や「誇りに思う度」がより高い傾向を示した。さらにこの調査では、ARMAは街を特徴づける新しい施設と認知されていることもわかった。 実際、ARMAは地元の商品やラッピングのデザインにも登場し、境町を特徴づけるものとして定着していることが伺える。交通手段としてだけでなく、住民のシビックプライドを高め、その主観的な幸福度を上げることにもつながっていた、というわけだ。
活用例の物流サービス、細かなニーズを満たせるか
パネリストによる話題提供の後は、将来的な自動運転の活用法や想定される課題について、全員でのディスカッションに移った。 大塚さんは自動運転車の活用例の1つとして、スウェーデンで展開されている物流サービスを紹介。このサービスでは、ゲームのコントローラーのような端末を用いて、一人のオペレーターが複数台の自動運転トラックを制御し、配送業務を行っている。また安全対策として、非常時(全土での停電や通信障害など)に即座に緊急停止するプログラムも備えられているという。将来的なドライバー不足に加え、さまざまな自然災害が想定される日本においても、活躍の余地があると考えられる。 ただし、現状の技術だけで物流に伴う問題をすべて解決できるわけではない。たとえば、商品を配送センターから受け取り主まで配達する際は、それまでの行程に比べてより高水準なサービスが求められることも多い。そのため、人間の手が介在しない完全自動運転による配送では、人間の細かなニーズを満たしきれない可能性があるとも指摘されている。