【#佐藤優のシン世界地図探索72】「民主的」と「人道」の単語を使うコラムニストとコメンテーターは無知
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――世界中が混沌としています。そんな世界を正しく捉える報道とは、どうしたら見極められるのでしょうか? 佐藤 トランプに関して言えば、重要なのは宗教への理解と彼の持つ「使命感」の感覚。これが分かるか、分からないかで見え方は変わります。 ――トランプは佐藤さんと同じカルバン派ですね。 佐藤 そうです。それからイスラエルにおいては、ユダヤ教と、ユダヤ人はそもそもどういう人々なのか、その理解が必要です。合理性などとは違う要因で動く人たちですからね。 ――日本では「イスラエルのネタニヤフ首相を、なぜ民主的な手続きで排除できないんだ?」という意見が溢れています。 佐藤 そんな単純な話ではありません。 ――そうすると、「民主的」や「人道」という単語を使って説明するコラムニストやコメンテーターは、実は何も理解していない方々だと。 佐藤 その通りです。これからの日本外交にとっての最重要課題は、とにかく平和を維持することなんです。平和を維持するためにアングロ・サクソン型の人権、自由、民主主義をある程度、抑制しないとならない局面に来ています。 ウクライナを見ればわかりますが、戦争が始まってからウクライナの民主主義は後退しています。ゼレンスキー大統領は5月までの任期を過ぎても居座っています。報道は新聞とテレビも事前検閲が導入されています。そして18~60歳の男子は出国禁止です。経済も腐敗しきっています。 戦争が始まると人権、自由、民主主義、市場経済、全て水準が落ちるんです。戦争によってそれらのレベルが上がったなんて聞いたことがありません。 ということは、我々にとって重要なのは東アジアの平和を維持することとなります。もはや世界レベルでは平和が崩れています。ヨーロッパ、中東の平和の担保は日本にはできないんです。しかし、東アジアに関していえば、プレーヤーとして日本が地域の平和を担保できます。 ――国内向けにはそうですが、国外向けにはどうですか? 佐藤 重要なのは北朝鮮、中国、ロシアと共存していく戦略です。 ――その3か国は全て、日本を滅ぼす力を持っています。 佐藤 その戦略を進めていくためには、日米同盟の見方を変える必要があります。日本にとって、アングロサクソンと二度と戦争しないことが死活的かつ重要な点です。そのために米国と同盟を組んでいます。同盟になれば攻めてきませんから。 ――すると、日本は中露北に「アメリカと戦争をしても、かつての日本のように国土が焼野原になるだけですよ」と話しかける。