昭和天皇が愛したさらし葱の「年越し蕎麦」 「おいしかった」の一言を添えられた
「おいしかった」という一言で、料理する人をねぎらう
昭和天皇は、量はそれほどではなかったが、まんべんなくいろいろな料理を召し上がった。あちこちに少しずつ箸をつけて残すようなことはせず、気持ちのよいほどきれいに召し上がる方だった。ただ、ご自分で残しそうだと思われた料理には、最初から箸はつけられなかった。箸をつけたときにすぐに切れなかったり、堅いと思われたら、それ以上ふれることはなかった。 残された料理は、「おすべり」として大膳がいただくことが許されていた。調理は職員が分担して行うから、大膳といえどもすべての料理の味を知っているわけではない。「おすべり」としていただいた料理を皆で味見して、次に料理を作る参考にしたという。 昭和天皇は、ご自分から食べたいものを所望されることは決してなかった。「これが食べたい」と希望を述べれば、その都度まわりが大変な思いをすると配慮されたのだろう。しかし、食べた料理がおいしいときには、必ず「今日の料理はおいしかった」という言葉が大膳に伝えられたという。料理を作る人の気持ちがわかるお方であった。(連載「天皇家の食卓」第29回) 参考文献/『宮中季節のお料理』(宮内庁監修、扶桑社)、『昭和天皇のお食事』(渡辺誠著、文春文庫)、『昭和天皇と鰻茶漬陛下一代の料理番』(谷部金次郎著、河出文庫)、『昭和天皇のごはんおいしい話と秘伝のごはん』(谷部金次郎著、新人物往来社)、『天皇陛下料理番の和のレシピ』(谷部金次郎著、幻冬舎) 文/高木香織 たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さまマナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへプリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さまあの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さまいのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る!家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。