なぜ、作家性は守られなければならないのか?──ドラマ『セクシー田中さん』で浮き彫りになった原作者軽視の悲しき慣習
とても個人的な話になる。日テレの石澤顕社長は、大学の同級生であるだけでなく、高校の先生を「共有」した関係だ。熊本の私立校で私が敬愛した国語の先生が、福岡の私立校に転じられ、そこに石澤君がいたのである。編集者になったのも、高校生に文学の面白さと深さを教えてくれたその先生の影響が大なのだが、石澤君も同じ先生の薫陶を受けたのではないかと思う。もしそうならば、最近この出来事を受けて発表された「日本テレビドラマ制作における指針」で「特に、漫画や小説などを原作として映像化する際には、原作を尊重し、その世界観をより深く理解するよう努めます」とたった1行で書かれたことに、表現者から見たらどれほどの重みがあるか、きっと理解できるはずだ。この1行を、制作現場の人たちが真に深く理解して原作者と向き合ってくれるようになることを、石澤社長に日テレでぜひ実現してとお願いせずにいられない。 そして、いまからでも、芦原さんの「表現者としての尊厳」を守るための事実の見直しと、それに基づく発言や行動を、すべての関係者の皆さんにお願いしたい。(8月4日、松本清張先生の三十三回忌の命日に記す) 参考文献 『清張映画にかけた男たち 「張込み」から「砂の器」へ』(西村雄一郎/2014年、新潮社) 『松本清張 映像の世界 霧にかけた夢』(林悦子/2001年、ワイズ出版) * * * 日本テレビ「『セクシー田中さん』調査報告書(公表版)」(2024年5月31日) 小学館「調査報告書(公表版)」(2024年6月3日) 日本テレビ「日本テレビドラマ制作における指針」(2024年7月22日)
堤伸輔
1956年、熊本県生まれ。1980年、東京大学文学部を卒業し、新潮社に入社。作家・松本清張を担当し、国内・海外の取材に数多く同行する。2004年から2009年まで国際情報誌『フォーサイト』編集長。2020年末に新潮社を退社。BS-TBS『報道1930』、テレビ朝日の『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』『中居正広の土曜日な会』などの番組でレギュラー/ゲストの解説者・コメンテーターを務める。 編集・神谷 晃(GQ)