「カシミール紛争」再び? インドとパキスタン対立の歴史
歴史上、本格的な核保有国同士の衝突はないが……
先述のように、今回のインドとパキスタンの緊張は、1971年以来の高さのレベルのもので、それぞれが核保有を宣言して以来、両国は最悪の関係に陥っているといえます。対立がエスカレートした場合、核の使用すら懸念されるため、アメリカ、イギリス、中国などの各国政府が両国に自制を求めています。 それでは、実際に核の使用はあり得るのでしょうか。これを考える際、重要なことは、核保有国同士は簡単には戦争できないということです。これは、いわゆる核抑止の考え方です。 核兵器で先制攻撃しようとする国は、一気に相手を全滅できない限り、必ず核の報復を受けると覚悟しなければなりません。つまり、核兵器を用いれば、相手に与えたのと同程度のダメージを受けると思えば、核保有国同士はお互いに手出しできなくなります。 実際、核保有国同士が直接戦火を交えたのは、歴史上中国とソ連がダマンスキー島(珍宝島)の領有をめぐって争った中ソ国境紛争(1969)しかありません。この場合、中国が核開発して間もない時期で、ミサイルや航空機など「核の運搬手段」がほとんど発達しておらず、核の使用が実質的に困難だったため、直接衝突が可能だったともいえます。 これに対して、現在のインドとパキスタンは、核弾頭を運ぶ弾道ミサイルや戦闘爆撃機を保有している点で、当時の中国と異なります。そのため、両国は核の使用の手前で衝突を回避しなければならず、緊張のエスカレートにブレーキをかけざるを得ないのです。
軍事的緊張の行方を左右する両国の世論
ただし、楽観はできません。最大の不安材料は、両国の世論です。 インド政府とパキスタン政府は、それぞれ「緊張のエスカレートを望んでいない」と公言しています。しかし、先進国と同じく、インドやパキスタンでもナショナリズムは高まっており、人々の不満や不安をすくい上げて特定の対象を攻撃するポピュリストも台頭しています。 インドでは、モディ首相のもとでヒンドゥー・ナショナリズムが高まっており、国内のイスラム教徒への襲撃などもほぼ放置されてきました。今回の衝突でも、パキスタン軍機に撃墜されたインド軍機のパイロットが連れ出される映像は、インド国内の反パキスタン感情をこれまでになく高めています。