改めて考える、“MBTI診断”ブームの行方~なぜ知りたくなるのか?キャリアに介入させる是非とは?~
Q:キャリアにおけるMBTIの介入には賛否あるようですね。大美賀さんにお伺いしますが、 MBTI診断にかかわらずこうした性格診断ものは、採用や配属の指標としての有用性はあるのでしょうか? 大美賀さん:私が企業や組織においてカウンセリングを担当する際、信頼性と妥当性が保証された性格検査の質問紙を使うことはありますね。検査結果から自分の強みや弱みを客観視し、個性の生かし方を考えるツールとして活用しています。人間の性格や行動傾向は変わるものですから、カウンセリングでは、強みを伸ばし、弱みを克服していこうという考え方の下、自己変容に向けたフィードバックを行います。 一方、Webサイトで誰でも気軽に受けられる「MBTI診断」は、「自己理解」にとどまっていて、「自己変容」という視点が抜けていると感じます。例えば、内向型と外向型、思考型と感情型などのバランスや偏りを把握するツールとして活用し、プロの助言の下で、過剰な要素と足りない要素をどのように補完し合っていくかを考える使い方ができるのであれば、組織での活用にも発展の余地があると思います。 しかし、性格検査の活用についての十分な教育を受けていない人間が、MBTIという分類された情報だけで人の向き・不向き、優劣を判断し、採用や配属の判断材料にするのは推奨できません。そもそも、「健全な組織」とはいろいろな個性を持つ人が集まる組織であり、違ったタイプの人と関わり合える環境で意見を出し合ってこそ、新たな発見も得られますよね。
改めて考えたい、MBTI診断ブームの行方
Q:ありがとうございます。最後に、本日の座談会を通じて、Z世代の皆さんは今後MBTI診断とどのように向き合っていきたいと感じましたか? Hさん:大美賀さんのお話を聞いて、MBTIが自分の個性の使い道を理解するきっかけになるのであればいいのかなと思いましたが、私は心理のプロではないですし、自分一人だけでは十分な思考・分析は進まないなと思います。Webサイトで気軽に受けられるものである以上、大事な決断の軸とするのではなく、趣味や娯楽の範囲で楽しむのがいいと感じました。また、自分よりもっと下のデジタルネイティブ世代がこうしたリスクを理解しないままMBTIに触れてしまっていると思うと、教育機関をはじめ、世の中全体でもっと慎重になる必要があるのかなと思います。 Oさん:僕は仲の良い友人ともMBTIを話題にすることが多かったのですが、今日の座談会に参加して、MBTIのリスク面にも改めて目を向けることができました。正式なMBTIとの違いや、どんなロジックをベースに開発されたツールなのかを今まで理解していなかったので、改めて勉強した上で活用していきたいと思います。 Kさん:私は普段おみくじなどでも都合の良い部分だけを信じるというところがあるので、MBTIに関しても同じ現象があるかもしれないなと座談会に参加して思いました。使う側もあくまで参考情報であるという自覚を持って向き合っていくのが良いかなと思います。 Nさん:僕はそこまでMBTIについて深く考えたことはなかったですが、良い面も悪い面もあるなと改めて考えるきっかけになりました。 MBTIが自分の背中を押してくれるような結果だったら良いかもしれませんが、もし何か大事な決定をする時に足を引っ張るような作用が働いてしまったらと思うと、やはり僕は“遊び”のツールとして向き合っていきたいです。 「16Personalities」は、誰でも気軽にMBTIを診断することができ、共通の話題としてコミュニケーションを盛り上げる有用なコンテンツの一つとなっている。しかし現状は、診断結果のアルファベット4文字が独り歩きしており、ルーツやロジックを考える機会はあまりなかったのではないだろうか。 「16Personalities」のような性格診断は、環境やメンタルの状態によっても結果が変わるものであり、その人のパーソナリティを決定づける情報としては不十分である。自分においても他人においても、あくまで回答した時点の思考・行動パターンを表したものに過ぎないということを理解した上で、向き合う必要がありそうだ。 時間をかけずとも自分や他人のパーソナリティの大枠を知ることができるのは確かに忙しい現代社会には合っているのかもしれない。しかしその利便性にとらわれて、自分や相手の人生に関わる重大な決定の判断材料として介入させることができるほど、人間は単純な存在ではない。教育、環境、社会、文化などさまざま側面から影響を受けてその人の今があり、そしてそれはいつでも変わり得るものであるという意識を持った上で、MBTIというコンテンツと向き合っていきたい。
大美賀 直子(おおみか・なおこ) メンタルケア・コンサルタント 公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラーの資格を持ち、「こころと人生と人間関係」のベストバランスを提案するカウンセラー、作家、セミナー講師として活動する。 (※1)一般社団法人日本MBTI協会より(https://www.mbti.or.jp/what/) (※2)全人的:人を一つの側面から見るのではなく、生物的、心理的、社会的、文化的、スピリチュアルといったさまざま側面から見ること。