昔なら「裏切り者」? 転職先からカムバック 迎え入れる企業 #令和に働く
▽役所とは違う形で社会貢献
取り組みは企業以外にも広がっている。総務省総合通信基盤局番号企画室の平松寛代室長(46)は、総務省初めての再雇用官僚だ。2000年に郵政省(現総務省)に入省し、郵便や電波に関わる業務に携わってきた。印象に残る仕事は、入省6年目に子ども向けにインターネットの有害情報をブロックする機能の普及に通信会社と協力して尽力したこと。「子どもたちを守ることができた」と誇らしく感じた。 総務省を辞めたきっかけは、同じく総務省に勤めていた夫が企業に転職したことだ。2人の間の生活リズムが変化し、職場が同じことで共通していた仕事の愚痴や悩みも話しにくくなった。「あの頃は夫婦の距離感が分からなくなっていた」と打ち明ける。 そんな中、公共的な事業も手がけるIT企業から内定を得た。一度環境を変え、官僚とは違う形で社会に貢献したいと考え、転職を決意した。 転職先では経営戦略や新規事業の立ち上げを担った。トップらの会議や営業など霞が関では経験できない、企業の考え方を学ぶ機会になった。
▽自分の持ち味を再認識
しかし、霞が関との違いを感じることもあった。官僚同士では普段から口に出さなくても「国のため」という共通のビジョンが自身や周囲に浸透していた。企業では社員の意識が必ずしも一致していないこともあった。部下をまとめるには「経営方針を心に砕いて一生懸命に説明することが関係強化につながる」と学んだという。 入社して約1年。新規事業も軌道に乗り手応えを感じていた。一方、官僚時代に身に付いた広い視点で社会や経済を見ることができる自分の持ち味を再認識するようになった。一度辞めた職場への復帰に周囲がどう受け止めるか不安だった。そのため不安要素を紙に書き出して考えを整理した。そのうち「民間の視点も生かした政策立案をしていきたい」との思いが強くなり、総務省への復帰を決意した。
▽総務省で初のケースに。今後は?
現在は電話番号の制度整備を担当する番号企画室の室長として6人の部下をまとめる立場だ。民間企業で学んだマネジメントのノウハウを生かし、部下と積極的にコミュニケーションを取ることを心がけている。 霞が関では若手官僚を中心に離職が大きな課題となっている。平松さんのような再雇用のケースは他省庁ではあるが、総務省では初めてだった。 総務省で人事を担当する大臣官房秘書課の柴山佳徳参事官は、霞が関独特の言い回しや業務を熟知し、民間企業の考えも分かる平松さんに期待する。 霞が関にも人材獲得競争の波が押し寄せている。柴山参事官は「組織の活性化にはさまざまなキャリアや考えを持った人が入ってくることが重要」と話し、今後も再雇用の事例を増やしたいという。