昔なら「裏切り者」? 転職先からカムバック 迎え入れる企業 #令和に働く
三菱電機の松浦佑貴さん(36)は2023年1月、シンクタンク研究員に転じた。エンジニアとして10年の節目。「もっと新しい経験ができるはずだ」と思い立った。 ところが待っていたのは、20年後の社会課題を数人で議論して資料にまとめ、官公庁向けに説明する日々。「やっぱりものづくりがしたい」と三菱電機時代の上司に連絡し、転職からわずか8カ月で戻った。 「軽い気持ちだったかも」と言う松浦さんだが、復帰は「すんなり受け入れられた」。終身雇用が前提だった時代なら松浦さんのような退職者は「裏切り者」と後ろ指をさされたかもしれない。配偶者の転勤や育児による退職とは性質が異なるためだ。それが今や英語で「卒業生」の意味がある「アルムナイ」と呼ばれ、即戦力として脚光を浴びている。 なぜアルムナイは一度辞めた会社に戻るのか。(共同通信=遠藤麻人、臼井春菜、小田島勝浩)
▽部署異動が転職のきっかけ
松浦さんが最初に三菱電機に入社したのは2012年4月。鎌倉製作所(神奈川県鎌倉市)でミサイルの飛び方を制御するシステムの設計などに携わった。「平和を守る製品をつくっているんだ」。責任感を持って業務に打ち込んだ。 転機は2022年4月の部署異動だった。異動後、防衛装備品の開発コストやスケジュールを管理する担当となった。ミサイルの飛び方といった限定的な範囲ではなく、装備品全体に携わるのが楽しかった。部署が変わって新しい自分に気が付いたのが転職のきっかけだったが、新天地での生活は長く続かなかった。研究員として単に考え方を伝えるだけでは満足できなかった。
▽「戻ってこよう」と思われる会社に
松浦さんの復帰を後押しした制度に「カムバック採用」がある。三菱電機は再雇用につなげようと、2022年に全社的に通知した。 松浦さんは退職時に制度を伝えられ、復帰を考えた際に頭をよぎった。「すぐに戻るのはどうかな」と思ったが、退職後も同僚と交流サイト(SNS)で個人的につながっていたことも大きかった。長坂英史採用グループマネージャーは「以前は新卒採用に偏っていた。複雑化する社会課題を解決するためには、他社での経験や知見を持ち帰ってもらうことが重要だ」と制度の狙いを説明する。カムバックに年齢や勤続年数などの条件はない。 一方、カムバックできる制度が充実することで、社内から「退職を招きやすくなる」との声もあった。長坂氏は「退職理由やキャリア観はさまざまだ。大切なのは『戻ってこよう』と思える会社に変わること。働く環境を整えれば、今いる従業員の満足にもつながる」と話す。