大晦日興行の成否を占う11月のPRIDE東京ドーム大会。「ノゲイラ対ミルコ」の壮絶な闘い。ミルコの大晦日出場は!?
いまから21年前の2003年12月31日は、日本のテレビ史においても特筆すべき一日となっている。日本テレビ、TBS、フジテレビがいずれもゴールデンタイムに格闘技を中継。なかでもTBSが放映した「Dynamite!!」のメインイベントとして行われた「曙太郎対ボブ・サップ」は注目度が高く、試合が中継されていた23時00分~23時03分の4分間は、視聴率でNHK紅白歌合戦を上回った。もちろん、民放番組が視聴率で紅白を超えたことは後にも先にも、このときだけである。 最後に名乗りを上げたPRIDEの思惑【格闘技が紅白に勝った日】 元横綱は、いかにして大晦日の舞台に上がることになったのか。12月19日刊行の『格闘技が紅白に勝った日 2003年大晦日興行戦争の記録』(細田昌志著、講談社刊)から、その舞台裏をお届けする。 前編<大晦日興行の成否を占う11月のPRIDE東京ドーム大会。「ノゲイラ対ミルコ」の壮絶な闘い。ミルコの大晦日出場は!?>
PRIDE史上に残る死闘
2003年11月9日に行われた「PRIDE GP2003決定戦」。高田延彦によるアントニオ猪木への訣別宣言に、場内は重苦しい空気に支配された。 それを払拭したのが、スーパーマリオブラザーズに扮して登場した桜庭和志だった。“ドンキーコング”こと元UFC王者のケビン・ランデルマンから、腕ひしぎ十字固めで勝利を収めると、場内のムードは一変した。 次いで、セミファイナル「PRIDEヘビー級暫定王者決定戦/アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ対ミルコ・クロコップ」の煽りVTRが巨大スクリーンに映し出された。本来なら「ヒョードル対ミルコ」のPRIDEヘビー級タイトルマッチが行われる予定だったが、ヒョードルが右拳を骨折したことで「ノゲイラ対ミルコ」の暫定王座決定戦に変更になったのだ。「ミルコはまだPRIDEでイージーな試合しかしていない。俺の関節技を味わえば、総合格闘技の怖さを知ることになる」とスクリーンの中のノゲイラが自信満々に語りかける。 結果として、この試合が、PRIDE史上に残る壮絶な死闘となったのである。 1R、小刻みにジャブを繰り出し距離を測るノゲイラに対し、ゆったりと構え、じりじりとプレッシャーをかけるミルコ。均衡を破ったのは1分過ぎに見せたノゲイラの胴タックルだった。 組みつくと自ら尻餅をつき、ガードポジションの体勢に引き込む。 上になってパウンドを落とすミルコだが、寝技地獄に持ち込もうとするノゲイラに、ミルコは攻めあぐねる。実況席では三宅正治アナが「ノゲイラの蟻地獄!」と絶叫したかと思えば、ノゲイラのファンで知られる女優の小池栄子は「早く離れて!」と繰り返す。彼女はノゲイラのゲームプランが理解出来ないらしい。それでも「PRIDEを防衛するノゲイラ」「PRIDEを侵略するミルコ」という図式だけははっきりと伝わる。 ミルコはガードポジションを破ろうと、胸を張り、膝をノゲイラの下半身に潜り込ませ、両脚のフックが緩くなったタイミングでスタンドの状態に戻すと、6万7000人の大観衆から割れんばかりの歓声が起きた。観客は派手な立ち技の攻防を見たいのだ。 ここからはミルコの独壇場だった。ローキックに左右のパンチ、さらにミドルキック2連発をノゲイラのレバーに叩き込み、ハイキックがテンプルをかすめると場内は大きなどよめきが起きた。ノゲイラは鼻血を出しながらどうにか寝技に引き込もうと、自ら寝転がるが、その都度ミルコは「付き合わないよ」とばかりに背を向けスタンドをアピール。 ミルコの猛攻は止まるところを知らない。強烈なローキックにノゲイラの身体がくの字に折れ曲がる。さらに「今夜は拳で眠らせてやろうか」と言わんばかりにアッパーまで繰り出す。ボクシングテクニックには定評のあるノゲイラだが、ダッキングするのに精一杯で為す術もない。 「ノゲイラ危うし」と誰もが思ったはずだが、筆者の脳裏には前年夏のボブ・サップ戦が脳裏をよぎった。大苦戦を強いられながら、サップのスタミナ切れを待って些細なミスを逃さず、腕ひしぎ十字固めで一本勝ちを収めた、あの大逆転劇である。窮地に立たされようと、最後まで勝利を諦めないのがアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの恐ろしさなのだ。 それでも、目の前で戦う相手は、そのボブ・サップさえもパンチ一発でKOしたミルコ・クロコップ。強烈なハイキックが炸裂すれば、さすがのノゲイラも敗北は必至で、テレビカメラはミルコのセコンドを映す。「行け行け」「やれやれ」と叫んでいるように見える。「勝利は目前だ」と鼓舞しているのかもしれない。陣営はお祭り騒ぎである。 次の瞬間、ミルコのハイキックがノゲイラの顔面を捕らえた。ダウンするノゲイラに、止めを刺そうとした刹那、1R終了のゴングが鳴った。6万7000人が大きくどよめいた。 千載一遇のチャンスを逃したミルコだったが、ノゲイラのダメージは大きく、ミルコの勝利は時間の問題かと思われた。