紫式部の父・為時を「大国」越前守に抜擢したのは道長?結婚適齢期を過ぎた娘をわざわざ赴任先に連れていった理由とは…
『源氏物語』の作者・紫式部の生涯を描いたNHK大河ドラマ『光る君へ』の放送が今年1月からスタート。「源氏物語にはたくさんの謎があり、作者の紫式部にもずいぶんと謎めいたところがある。彼女にも彼女なりの『言い分』があったにちがいない」と話すのは、日本文藝家協会理事の岳真也さん。岳さんいわく「紫式部が為時の赴任先である越前まで付いて行ったのには、とある理由があった」そうで――。 本郷奏多さん演じる花山天皇に入内した井上咲楽さん演じるよし子は、そのまま「夜御殿」で…ってそもそも「入内」とは? * * * * * * * ◆父・為時の赴任 長徳(ちょうとく)2(996)年の秋、紫式部の父・為時が越前守(えちぜんのかみ)に任ぜられたため、紫式部は父といっしょに京を離れました。父の身のまわりの世話をする必要があったのです。 為時は受領職でありながら、10年もの長きにわたって、無役の立場でした。それが少しまえに、淡路(あわじ)守(淡路島・沼島を治める国司)として赴任することになったのです。 淡路はしかし、「下国(げこく)」であり、上級の国ではありません。そのことを不満に思った為時は、一条天皇に申し文(上奏書)を送り、おのれの心情を訴えたのです。なかの一節に、こういう漢詩があります。 「苦学の寒夜 紅涙襟(こうるいえり)を霑(うるお)す 除目(じもく)の後朝(こうちょう) 蒼天眼(そうてんまなこ)に在(あ)り」 「紅涙」とは、悲しみのあまり流す血のような涙で、苦学をしている寒い夜、その涙が袖を濡らす、というのです。「除目の後朝」とは、除目―淡路赴任のお達しのあった翌朝のこと。 その朝は失望のあまり、「真っ青な空が眼に染みた」というのです。(『新日本古典文学大系 今昔物語集四』小峯和明校注/岩波書店・参照) ほかにも文中には、漢籍の達人にしか書けないような言葉がたくさん、ちりばめられています。 その名文を読んだ一条帝は、さきの決定をおおいに悔いて、当時、朝廷の実権を握りはじめた藤原道長に、「いま一度、よく検討するように」と命じました。 そこで道長は、一思案。そして為時を、「大国」すなわち重要な地である越前の国司に任じたということです。
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