衝撃的…「昭和世代が想像する老舗」と「令和の老舗」のすごいギャップ
「老舗」とは何か。その定義は企業・団体によってさまざまで、「事業歴50年以上」としている場合もあれば、「創業100年以上」の場合もあります。企業年齢が「老舗」と見做される条件のひとつであることは間違いありません。しかし創業50年と創業100年とでは意味合いが変わるほか、元号によってもイメージは大きく異なります。何より、老舗にも存続年数だけではない矜持があるはずです。新時代の老舗企業とはどのようなものか? 岩﨑尚人氏の著書『日本企業は老いたのか』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
元号によって変わる老舗のイメージ
~昭和世代が想像する老舗=「大正創業」だが、老舗=100年企業と考えると…? スペイン風邪が日本に上陸して猛威を振るったのは、Covid-19の襲来で世界が一変した2020年を100年程前に遡る、1918年のことである。今次のパンデミックで世界全体で約7億人が感染し約700万人が亡くなったのに対して、100年前のパンデミックでは死者だけで4000万人を超えていた。当時世界の人口が18億人程度であったというから、人口比で考えると被害状況は想像を絶するほど酷かったに違いない。 当時の人々は、われわれ以上に不便な生活を強いられていたことはいうまでもないだろう。テレビもインターネットもなく、庶民にほとんど情報が入ってこない中で、何を知って何を知らずに日常を送っていたのであろうか。当時の記録は限られているため微細な状況は推測するしかないが、外出の際にマスクを着用していたことは今回と同様である。 そうした無惨なパンデミックが落ち着く間もなく、1923年に関東地方を大震災が襲った(*1)。64年間続く昭和がスタートしたのは、その復興最中の1926年のことである。感染症、地震、経済恐慌、そして戦争という四重苦への幕開けであった。しかしながら、1945年8月のポツダム宣言受諾に至る前半の20年こそ戦渦に塗れていたものの、それ以降の昭和は、経済的にも豊かで社会的にも安定した時代であった。 戦後の混乱期には、ホンダやソニーといった新興企業が数多く立ち上げられ、1960年代の高度経済成長期を経て世界市場を闊歩する国際派企業が数多く輩出された(*2)。1980年代になると、それらの企業に支えられて、日本経済は世界経済のリーダーの一角を為すまでになった。荒廃からの奇跡の復興劇を体現した舞台が昭和であった。 新興企業が次々と表舞台に登場する一方で、日本文化や伝統を守りそれを後世に伝える「老舗」と呼ばれる長期存続企業もまた不遇の時を乗り越えて生き残ってきた。昭和末期から平成初期の間に100年の歴史を誇っていた老舗が創業したのは明治時代で、平成後期に100周年を迎えた老舗の創業は大正時代ということになる。昭和の新人類がイメージする老舗は、このように大正時代以前に創業された100年企業である。そして令和の時代になると、1925年、すなわち昭和元年に創業された企業が100年企業ということになる。なるほど、元号によって老舗のイメージも大きく変わるのである。