学生の扶養控除の年収要件引き上げを検討:もうひとつの『103万円の壁』は解消に向かうか
自民・公明党と国民民主党の間では、「103万円の壁」対策が議論されている。「103万円の壁」問題とは、年収が103万円を超えて基礎控除額などの水準を上回ると所得税の支払いが生じることから、それを回避するために労働時間を調整し、人手不足をより深刻にしてしまうことをいう。 国民民主党は、基礎控除額などの水準を現状の103万円から178万円まで引き上げ、さらに住民税についても同様の措置を講じることを主張している。他方で与党は、国民民主党のもとでは、年間7~8兆円の大幅な税収減が生じることや、高額所得者により減税の恩恵が及ぶことを問題視し、国民民主党の「103万円の壁」対策案を修正しようとしている。 実は、もう一つの「103万円の壁」がある。それが、学生が対象となる「特定扶養控除」だ。この特定扶養控除は、19歳以上23歳未満の学生の子どもを持つ親らの税負担を軽減する税控除の仕組みである。所得税の場合、子どもの年収が103万円以下なら親の所得から63万円を差し引いて課税される。住民税にも同様の制度があり、税控除となるのは45万円だ。働く学生の手取りは変わらないが、親の税負担が増えることから、年収が103万円を超えないように、労働時間を調整する動きが生じる。 特定扶養控除によって生じる「103万円の壁」は、基礎控除額などによって生じる「103万円の壁」とともに、国民民主党が年収要件を引き上げることを求めている。特定扶養控除の年収要件を引き上げる場合、それによる税収減は、数十億円から数百億円規模になる見通しだ。 与党は、国民民主党の主張を受け入れて、学生が対象となる「特定扶養控除」の年収要件引き上げを検討しているとされる。基礎控除額などの年収要件の引き上げと比べて、与党がすんなりと「特定扶養控除」の年収要件引き上げを受け入れる方向なのは、税収減が比較的小さいためだろう。 他方、本丸となる基礎控除額などの引き上げについては、依然として、与党と国民民主党との間で妥協点は見出されていない。基礎控除額などの引き上げについて、住民税を含めない「分離案」、年収要件の引き上げを国民民主党が求める178万円までよりも小さく抑えること、基礎控除額などの引き上げに所得制限を設け、高額所得者には減税とならないようにすること、などが妥協点として検討されているとみられる。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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