かつて世界から絶賛された「日本的経営」が“デメリットばかり”に変貌したワケ【経営学者が解説】
年功序列制度
~成長率が低いときは、コストとポストの両面で「足かせ」となる 日本的経営の「三種の神器」の中で、終身雇用制度と表裏一体の関係にあるのが、勤続年数が長くなるにつれて賃金が上昇し職位も高くなる「年功序列制度」である。勤続年数が増えるにつれて定期昇給によって定年まで賃金が増え続けるだけでなく、職位も上がるという制度である。この制度の根底には、経験や教育・訓練の成果は年齢とともに積み重なり、それに応じて企業に対する有形無形の貢献も大きくなるため、「過去の貢献にも報いるべき」という思いやりの思想が流れている。 年功序列制度のもつメリットの一つは、終身雇用制度同様に、従業員にとって長期的な生活予測が可能になるため安定感や安心感を与え、企業への忠誠心を高めることである。また、能力や業績を過度に強調しないので、労働者の自尊心を著しく傷つけることのない配慮や平等意識のメカニズムが組み込まれており、労働者の意欲や忠誠心を保つことが可能になる。さらに、長期的視野に立った業績評価や、集団あるいはチームをベースにした曖昧で包括的な評価が可能になる。温情に満ちたこの制度は、しばしばGNN(義理と人情と浪花節)マネジメントと揶揄されたが、日本的精神を反映しているともいえる。 しかしながら、企業内の経験やOJT教育の成果は、必ずしも企業の成果に直接結びつくものではないし、個人の能力や実績を直接反映するものでもない。そこで、中小中堅企業を含めた多くの企業が、ホワイトカラーを対象に職務遂行能力や実績を加味した評価システム(職能資格制度)を導入するようになった。能力や実績を加味するとはいっても、年功的色彩が強く残っていた。 年功序列制度のソフトな心理的配慮や平等志向の下では、賃金や昇進が労働意欲を引き出すインセンティブとして機能するわけではない。むしろ年功序列制は、人間関係能力や忠誠心などの要素を重視する制度である。そのため、個人の仕事の成果・実績を的確に評価して対価として昇給するなどの客観性に乏しく、権限と責任が曖昧な組織を生み出す要因となってきたともいえる。 終身雇用をバックグラウンドとした年功序列制度は、企業規模が拡大し成長率の高いときには平均コストが低下して競争力強化に有効となるが、成長率が低いときにはコストとポストの両面でマイナスとなる。そのため成長が期待できないときには、この制度の見直し論が出てくるのは必然であった。事実、第1次オイルショック以前に多く見られた日本的経営絶賛論は、景気悪化によって日本的経営悲観論に転じている。