年間授業料260万円の学校に日本人の子どもが通えるか…歴史的円安で進む「日本の途上国化」の厳しい実態
■日本なのに日本人を相手にしなくなりつつある しかし、問題はこうした影の商売だけでなく、もっと華やかな「商売」での変化の方が重要かも知れない。たとえば、日本人相手に旅館やホテルを経営するより、一気に外国人専用のものを造り、それで「外国人価格」の商売をしようとの方向性で、その先例は北海道のニセコやトマムで有名になっている。 たとえば、ニセコについては矢部拓也氏が指導下にある院生とともに書いた論文(※)では経度が同じでかつ夏冬が逆転しているオーストラリアからのスキー客が冬季にあふれる様子をレポートするとともに、冬にしか来ないので夏をどう生きるかという問題に地域が直面しているとしている。 ※矢部拓也・野続祐貴「北海道におけるインバウンドを活かした健全な地域形成とはなにか? ――外国人富裕層向けツアーコンシェルジュのライフヒストリー:夏の北海道ニセコ地区、空知地区・美唄市でのサイクルツーリズム立ち上げを事例として――」『徳島大学社会科学研究』第30号、2016年 同様の問題は東京都内に新しく建設され続けている超高級マンションの顧客が殆ど外国人であるという形でも生じている。 ■東京の一等地に「外国人用」の学校が… 最上階マンションの価格が300億円ということでも有名になった麻布台ヒルズにはそのメインタワーに隣接してインターナショナル・スクールが併設されたが、3歳から18歳までの生徒にイギリスのナショナル・カリキュラムに基づく教育を提供するというこの学校の校庭開園式にはイギリスの教育相まで来るという力の入れようである。 ただし、年間の授業料は260万円でやはり「外国人用」である。そういう人たちだけを相手に森ビルが商売をしようとしているということになる。 実のところ、この傾向はここ麻布台ヒルズのみに終わるものではなく、現在田町駅と品川駅の間で進められている巨大プロジェクトもまったく同じである。ここにはすでに4棟の大規模な高層ビルが建てられてしまっているが、その一番北に位置する大規模ビルはやはりインターナショナル・スクール併設のマンション棟となっている。このマンションの価格はまだ発表されていないが、やはりここも外国人相手なのである。 ともかくこうして日本人自身が日本人を相手にではなく外国人を見つけて走り回りだしている。これを「途上国化」と言わずしてどうしようか。日本の民族主義者はもっとこの問題を知らなければならないと思うのである。 ---------- 大西 広(おおにし・ひろし) 京都大学/慶應義塾大学名誉教授 1956年生まれ。1980年京都大学経済学部卒業、1985年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。1989年京都大学経済学博士。1985年立命館大学経済学部助教授、1991年より京都大学経済学部/経済学研究科助教授、教授を歴任。2012年より慶應義塾大学経済学部教授。2022年3月31日慶應義塾大学定年退職。世界政治経済学会副会長。主著に『マルクス経済学(第3版)』(慶應義塾大学出版会)、他にマルクス経済学や中国問題に関する著書多数。 ----------
京都大学/慶應義塾大学名誉教授 大西 広