Paceギャラリーが東京にオープン。藤本壮介に聞いた、アートを彩る空間デザイン
1960年の創設以来、世界の現代アートシーンを牽引してきたPaceギャラリー。ニューヨークを本拠地にロンドン、香港、ソウル、ジュネーブ、ロサンゼルスに拠点を持っているメガギャラリーが今年ついに東京進出を果たし、話題になっている。ロケーションは東京都心の新たな複合施設「麻布台ヒルズ」で英国人建築家、トーマス・ヘザウィックによるビル内に3フロアを有する。内装設計はPace CEOのマーク・グリムシャーが“マエストロ”と賛辞を寄せる建築家・藤本壮介。内覧会で藤本に話を聞いた。 ──デザインのコンセプトについて教えてください。 「アートギャラリーを設計するのは初めてだったのですが、まずはアートありきの空間作りを目指しました。壁の角にカーブをつくることで連続性を持たせ、シンプルかつクリーンな環境でよりアート作品が引き立つような工夫をしています。ただ単にきれいなだけの空間ではなく、ある種の特別な感じをいだく、空間と時間を作りたいと思いました」 ──空間と時間を作る、とは? 「建築空間には、その場所に漂っている固有の雰囲気というか空気感があります。アートギャラリーとは非常にシンプルで静謐な場所。しかし時間が止まっているわけではなく、常に動きもある。その場にあるアートそれぞれが語りかけてくるような時空間もあるので、それを邪魔しないようにしつつ、全体に流れている空気感も作っていきたいと考えました」 ──2階フロアに設置された階段はとても繊細なデザインですね。 「設計は自由にさせていただいたのですが、(Pace CEOの)マークさんからは唯一のリクエストとして、ギャラリー空間としてはアートへの視線をなるべく遮らないでほしい、と言われました。階段はフロアの中央にあるので、できるだけ透明感を持って作れたらいいなと考え、ガラスを使用することも検討したのですが、実はガラスで階段を作ると結構ゴツくなっちゃう。それで、なるべく繊細な作りにして、全体が吊ってあるように見えるデザインにしました。近くで見ていただくとわかるんですが、階段は結構シャープな角棒で作られていて、壁の角が丸くなっているところとコントラストにもなっています」 ──階段を上がって3階はコレクターやアーティストたちのための特別なフロアとなっていますが、スペースに入る自然光も印象的でした。 「プロジェクトが始まるときマークさんに、まずはニューヨークにきてギャラリービルを見てほしい、と言われたんです。そこで彼の思想などについても伺いながら、コレクターたちをもてなす部屋も見せていただいたんですが、とてもゆったりとしていて自然光が入るようになっているのが印象に残りました。それで3階は、デイライトの中でリラックスして自分の時間を感じながらアートを見たり、買ったりするのも贅沢でいいんじゃないかな?と考えました」 ──ギャラリーのある麻布台ヒルズはトーマス・ヘザウィックによるドラマティックなランドスケープはもとより、ディオール(隈研吾)やカルティエ(永山祐子)などラグジュアリーメゾンの路面店も著名建築家によるデザインの競演といった様相を呈しています。藤本さんによるPaceも、国内外に存在感を示していくと思いますがいかがですか? 「実はシーザー・ペリによる超高層タワーの足元にある商業空間のエントランスは僕らがデザインしていて、途中ヘザウィックともよく打ち合わせをしていたんです。彼の建築デザインは一見してそれとわかるのが特徴ですが、Paceの場合はあくまでアートが主役ですから。僕らはヘザウィックにそそのかされるのではなく(笑)、むしろコントラストを出してシンプルかつクリーンな場所を作ろうと思いましたね」 ──今回のオープニングを記念した特別プレビュー展では9月に個展が予定されているメイシャ・モハメディのほか20世紀~現代まで約45の作品が展示されています。実際空間にアートが入ってみてどんな感想を持たれましたか? 「アートが入ることでギャラリー空間にエネルギーが生まれているのが見えてきました。これからPaceを拠点にさまざまな活動が広がり、日本のアートシーンを牽引していく場所になっていったら嬉しいですね」 Photos:Courtesy of Pace Gallery Text:Akiko Ichikawa