「認知症に本当に必要な薬」はごくシンプル!老年医学専門医が、保険適用の古典的な2つの薬を勧める理由【山田悠史医師】
認知症の症状を和らげる、2つの基本の薬
それでは、本題の「本当に必要な薬」についてです。 認知症の症状を和らげる薬として、「コリンエステラーゼ阻害剤」と「メマンチン」という2種類の薬があります。両方ともに飲み薬(一部貼り薬もあります)で、基本的にはこの2種類を知っておけば十分です。これらの薬は、アルツハイマー型認知症や、前者はレビー小体型認知症という病気にも効果があることが知られています。また、ざっくりと前者はより早期に、後者はより認知症が進んでから登場する薬と捉えておきましょう。
日常生活の機能が向上、死亡率の低下も
過去の研究では、これらの薬が認知機能の低下を緩やかにし、日常生活の機能や行動面での症状を改善する効果があることが示されています。例えば、ある研究(参考文献2)では、これらの薬を使用した重度の認知症患者さんで、症状の重さが軽減し、日常生活の活動が向上したと報告されています。さらに、死亡率の低下との関連も見られたと報告されています。 また、最近の長期的な研究(参考文献3)では、実生活の中でこれらの薬がどのように効果を発揮するかも調査されています。スウェーデンの研究では、アルツハイマー型認知症と診断された約1万人を対象に、5年間の追跡調査が行われました。その結果、コリンエステラーゼ阻害剤を使用した人は、使用しなかった人と比べて、認知機能検査の結果が一貫してよかったことが報告されています。 さらに、別の研究(参考文献4)では約13年間追跡をしていますが、薬を使用した人の方が、生存率が高く、認知機能のテストでも良好な結果を示しました。ただし、これらの研究は、観察研究と呼ばれるものであり、認知機能に影響を与えうる既知の因子については調整がされているものの、見えないバイアスの影響を受けている可能性があることには注意が必要です。
2つの薬は、「壁のペンキを剥がれにくくする塗料」
これらの薬は、症状の進行を完全に止めるものではありませんが、進行を遅らせ、生活の質を向上させる助けとなります。副作用で残念ながら使えなくなってしまう方もいないわけではありませんが、副作用は比較的少ない薬であり、多くの方にとって手頃な価格で利用できるのも魅力です。古典的な薬ですが、検討の価値は十分ある薬だと思います。 こうした薬と脳の関係を家の外壁で例えると、これらの薬は壁のペンキが剥がれにくくする塗料のようなものだと言えます。家が年月を重ねると、壁のペンキは年々剥がれ落ちてしまうかもしれません。しかし特別な塗料を塗っておけば、完全にはそれを防げませんが、剥がれ落ちるのを遅くし、外見の質を維持するのに役立ちます。同じように、認知症に用いられる薬は、認知症の進行を完全に止めることは難しいものの、薬を使うことで、進行を遅らせたり、生活の質を保ったりするのに役立つのです。