ヒアリ上陸、私たちはこれから何に備えるべきか?
日本政府のヒアリ対策
いずれの毒アリ発見事例も速やかに殺虫剤による駆除が行われ、それ以上の分布拡大は防げていると判断されるが、こうも短い期間に次々と危険外来アリの上陸が確認されたことで、環境省および全国の自治体は、次はどこに出て来るかと戦々恐々となった。というのも輸入コンテナは、港で陸揚げされた後、すぐに国内の様々な倉庫へと陸送されるので、ヒアリがコンテナから降りるのは、何も港内だけとは限らないからである。 まずは港湾エリア内でのヒアリ類の防除を徹底すべきと、国交省はヒアリの生息国又は地域との定期コンテナ航路を有する全国の68港湾に対して、ベイト剤と言われる殺虫成分を含む餌剤を絨毯爆弾的に設置する方針を7月12日に発表した。 しかし、この方針に対してはすぐに筆者を含む生態学者から反対の意見が出されて、方針の見直しを行うこととなった。反対意見として、まずベイト剤とは、殺虫剤入りの餌を働きアリに巣に運ばせて巣内の幼虫や女王に摂食させることで、巣内の生産を抑制し、最終的に巣を崩壊させるという作用性で効果を示す剤である。従って、巣が見つかってもいないところで使用してもその薬効は期待できない。 また、ランダムにベイト剤をばら撒けば、侵入して間もない少数集団のヒアリが餌剤に食いつく前に、そのエリアに生息する在来アリ類や地表徘徊動物たちが先に餌剤を摂食してしまい、それら在来種が減ってしまうことで、エリア内の生態系が砂漠化してしまう恐れもある。 港湾エリアなんて人工的に造成された土地であり、そこに住む昆虫なんていなくなっても構わないではないかと思う向きもあるかと思うが、外来種の侵入に対する生態的抵抗力として日本のアリ類の存在は重要な意味を持つ。上陸して来た新参者かつ少数派である外来アリに対して、在来アリが攻撃を仕掛けることで、その繁殖を阻害する効果が期待される。実際に海外では、在来アリ相が豊富なエリアの方が外来アリの侵入が起こりにくいという検証データも報告されている。従って、薬剤の無差別な設置は、生態的な空洞化をもたらし、むしろ外来種に付け入る隙を与え、侵入・定着を促してしまうことにもなりかねないのである。 もちろん、ヒアリは強い増殖力と毒針をもっており、闘争状態が続けば最終的には在来種が負けてしまう可能性は高い。しかし、闘争によって繁殖・定着までに時間がかかれば、人間による防除にも余裕ができる。 また使用する薬剤自体は環境毒性が高い物質であり、むやみに環境中に放出すれば、当然、残留など環境影響も懸念される。薬剤は適正に使用すべきアイテムであり、ベイト剤の使用については、まず綿密にモニタリングを行い、ヒアリ類の存在を確認することが前提となる。 現在、環境省では、無差別・絨毯爆弾方式の薬剤処理は撤回し、まず港湾およびその周辺エリアにおいて目視および粘着トラップによるアリ類調査を徹底することとし、これまでに存在が確認されたエリアについてはベイト剤もあわせて設置し、繁殖を予防するという方針に切り替えている。国交省もまた港湾に加え空港についても周辺地域におけるアリ類調査の徹底を指導している。