2018年「オリジン・オブ・恐竜」(中):進化のカギ?超大陸パンゲアの世界
パンゲア大陸の地理的重要性
さてこうした一連の三畳紀の初期恐竜の化石は、具体的にどこで見つかるのだろうか? 化石産地は以下の国において知られている。国名の後につづくかっこ内の数字は、時代IからIIIを示す(化石産地の地層年代)。 1.アフリカ:南アフリカ共和国(I?-III)、タンザニア(I)、モロッコ(III) 2.南米:アルゼンチン(II & III) 3.南極:(III?) 4.オーストラリア:南部(III) 5.アジア:インド(III?) 6.南ヨーロッパ:イタリア(III) 7.中央ヨーロッパ:ポーランド(I) 8.北アメリカ:USA南西部(III)、USA東海岸北部(III)、カナダ北東部(III) この地理的分布をながめてみて、「ある一つの傾向」に膝を打ってすぐ気付いた方は、太古環境や地球の歴史にかなり詳しいと推察する。 三畳紀のほぼ全時代(特に初期恐竜の出現した三畳紀中期から後期の前半まで)を通し、これらの地域は全て直接「陸地としてつながっていた」。ペルム紀から三畳紀の末期あたりまで、地球には一つの大きな超大陸だけが存在していた。 「超大陸パンゲア」については以前の記事(「21世紀版大陸移動説:上&下」)で紹介したので覚えている方がいるかもしれない。大陸移動に基づく陸地や海洋の大きさと形の変遷は、太古の環境に大激変を与えたことが想像される。 例えば海流の変化(=気候にとって重要だ)や造山活動(=大山脈の誕生や火山群の大噴火など)、そして赤道から極地へかけての緯度の変化(=気温や湿度に深く関連)などが、引き起こされたことだろう。こうした一連の環境の大変化は、生物にも計り知れない激震をもたらしたはずだ。
ここで是非一つ、イマジネーションを働かせていただきたい。 恐竜が初めて出現した頃、現在みられる全ての大陸は、一つのつながった巨大な陸地の固まりとして存在していた。この生物史上最大級の「広大な大地」という条件は、陸生生物にとって格好のものではなかっただろうか? より住みやすい、餌が豊富で競争相手の少ない場所へと、物理的に直接歩いて探索し、移動することができたはずだ。海洋という障害物がなかったため、フェリーや筏(いかだ)、ヘリコプター(または特殊な水泳能力や飛翔能力)なども必要なかった。 そして恐竜の重要な解剖学的特徴を是非今一度、思い出していただきたい。前回の記事でも触れたが、「手足や骨盤」に独特の構造がみられる。こうした爬虫類進化上の斬新な体の構造は ── 特に後のジュラ紀や白亜紀に現れたほとんどの大型恐竜に共通して見られるように ── 「直立歩行」を可能にした。 ―2018年「オリジン・オブ・恐竜」(上): 恐竜の肘と膝の関節は、体の中心線に沿って真下に向かってほぼ一直線の180度の角度で伸びている。ワニやトカゲなどは、一見ガニ股風で、肘や膝の関節が90度近くに折れ曲がっているのとは大きな違いだ。両爬虫類グループは陸地で移動する時、その姿が大きく異なるのだ。 恐竜のこの独特の体つきは、「長距離」を低コストで楽に移動する術(すべ)をあたえてくれたはずだ。あるものはスピード走行さえも手に入れたかもしれない。すらりと伸びた手脚を手に入れた種も非常にたくさんいる。それまでは存在しなかった、二足歩行という新しいフォームをもつ種も現れた。体重を楽に支えることのできる体の構造は進化上、後の「(超)大型化」への礎になった可能性も否定できないだろう。 超大陸パンゲアの存在と共に、この斬新な体の構造が、初期の小さな恐竜が生き延び、後に大躍進するカギとさえなったはずだ。 そして三畳紀末期からはじまったパンゲア大陸の分裂にともない、恐竜たちはそれぞれに隔離され散らばった新しい大陸において、大躍進と多様化を着々と進めたようだ。オーストラリア大陸でユニークな有袋類という哺乳類が独自の進化を遂げたように。 ※筆者注:今回作成した初期の恐竜分布パターンの図は、以下の研究論文をもとに作成した。 ―Benton, M. J. (2004). Origin and relationships of Dinosauria. In The Dinosauria, second edition (eds. D. B. Weishampel, P. Dodson and H. Osmolska), pp. 7―19. University of California Press, Berkley. ―Bernardi, M., M., Piero Gianolla, F. M. Petti, P. Mietto, & M. J. Benton. (2018) Dinosaur diversification linked with the Carnian Pluvial Episode. Nature Communications 9 (1): DOI: 10.1038/s41467-018-03996-1 ―Brusatte, S. L., Niedzwiedzki, G. & Butler, R. J. (2011) Footprints pull origin and diversification of dinosaur stem lineage deep into Early Triassic. Proceedings of Royal Society Series B 278:1107―1113. ―Langer, M.C., M. D. Ezcurra, J. S. Bittencourt & F. E. Novas. (2009) The origin and early evolution of dinosaurs. Biological Review 85, pp. 55―110. 55 doi:10.1111/j.1469-185X.2009.00094.x ―Nesbitt, S.J., P. M. Barrett, S. Werning, C. A. Sidor, & A. J. Charig (2012) The oldest dinosaur? A Middle Triassic dinosauriform from Tanzania. Biology Letters 9: 20120949.