2018年「オリジン・オブ・恐竜」(中):進化のカギ?超大陸パンゲアの世界
最古恐竜における足跡化石ミステリー
非常に数の少ない時代Iや時代IIの恐竜の「骨格化石」。しかしもう一つ別のタイプの化石が、恐竜の起源を探求する時に「カギとなる」可能性がある。 「足跡」の化石だ。 実は「時代I」の地層からは、恐竜形類や恐竜型類と考えられるかなりの数の「足跡化石」が知られている。初期恐竜において骨格化石よりも足跡化石の方が格段にその量が多いのは間違いない。 足跡化石の重要性については「足跡化石の謎:上・中・下」の記事において、以前紹介した。化石記録一般において、特定の条件がそろっていれば、歯や骨の化石より足跡化石の方がかなりたくさん見つかるケースがある。 ― ― ― Brusatte等(2011)は、こうした初期恐竜群の足跡化石の記録を丹念にたどって、一つの研究としてまとめている。この論文の中ではポーランドで見つかったなんと「三畳紀前期―オレネキアン期」(=時代Iよりもう一つ前の時代区分)の恐竜と考えられる足跡化石を調べている。 ―Brusatte, S. L., Niedzwiedzki, G. & Butler, R. J. (2011) Footprints pull origin and diversification of dinosaur stem lineage deep into Early Triassic. Proceedings of Royal Society Series B 278:1107―1113. 足跡化石の判定は時にかなり難しいことがある。大きさや歩幅、それぞれの指の長さなどを丁寧に比較して、はじめて真の恐竜のモノなのか、それともすぐ近縁または遠縁種のモノなのか、判定が下される。足跡が残された当時の地表の条件も、こうした判定をさらに難しくするケースがある。 例えば同じ個体でも、ぬかるんでつるつるすべる泥のたまった湖畔を慎重に歩く時もあれば、たくさんの砂を含んだ海岸線をルンルン気分で駆け抜ける時もあったはずだ。異なる環境で残された足跡が同一の種(または個体)のものと、確実に判定を下すことができるだろうか? しかし、こうした最初期の恐竜に属すと思われる多数の足跡化石は我々に、いくつかの重要なメッセージを語りかけてくるようだ。 まず恐竜は、骨格化石の最古記録(=「時代II」:三畳紀中期の後半)より、「もっと古い時代」にあたる「時代I」(三畳紀中期の前半)、または三畳紀前期に、すでに登場していた可能性がある。豊富な足跡群から推察するところ、「2億4500万年前頃」には、恐竜の直接の祖先たちがすでに現れていた可能性がかなり高いようだ。 もう一つ、個人的に私が非常に気になるのは、化石記録(足跡と骨格どちらも)が「時代IIにおいて極端に少ない」点だ。この具体的な理由は今のところ特に何も思いあたらない(私が何か個人的に見逃している可能性もある)。もしかするとこの時代にあたる地層の数が極端に少ないだけなのかもしれない。他の理由が何かあるのかもしれない。(読者の中に何か名案珍案をもっている人がいるかもしれない。) 足跡と骨格化石の記録の全てをまとめたものをあらためてながめてみると、興味深い点がもう一つみつかる。時代IIIの一時期、初期の原始的な恐竜型類Dinosauromorphaと最古の恐竜上目の種が「同時期に生きていた」可能性だ。事実といっても差し支えないかもしれない。 初期の恐竜型類のような、かなり小型の肉食性で四足歩行を行っていた可能性が高いタイプから、恐竜上目の種に見られるように、やや大振りで二足歩行のデザインをもち、いくつかは草食性をはじめたタイプ(またはその直接の先祖にあたる種)への進化 ── この大きな変化が時代IIIの限られた時代の内で起きた可能性がある。 もしこの興味深いマクロ進化が、短期間に急激に遂げられたとしたら、その直接の原因は果たして何だったのだろうか? 我々の手元にはまだこうした具体的な問いかけに答えるための、十分な情報が揃っていない印象を受ける。