「医療と距離を置いてきた僕が肺がんを見つけられた理由は…」87歳の養老孟司が病院に行くべきか迷ったときに従う<声>とは?
2020年に心筋梗塞を患った解剖学者・養老孟司先生は、2024年5月に「小細胞肺がん」と診断されました。養老先生の教え子で、自らも膀胱がんを経験した東大病院放射線科医師・中川恵一先生や、娘の暁花さんとともにがんと闘っています。そこで今回は『養老先生、がんになる』から一部を抜粋し、養老先生のがんが発覚したきっかけについてお届けします。 【写真】病室の養老先生。自著を持って * * * * * * * ◆病院に行く決心をした理由 4年前(2020年)、心筋梗塞で入院し、そのときのことを『養老先生、病院へ行く』(中川恵一との共著)に書きました。 僕は病院にはできるだけ行きたくはないし、医療とはなるべく距離を置きたいと思っていますが、病院に絶対に行かないと言ったことはありません。 あのとき病院に行く決心をしたのは、本にも書いているように、「体の声」が聞こえたからです。 学生の頃、東大医学部で教授から、何か軽い症状があったとき、1週間様子を見て、症状が消えなかったり、悪化しているときには、病院に行くべきだということを教わりました。 1週間たっても消えない症状や、だんだん悪化していく症状のことを、僕は「体の声」と呼んでいて、自分が病院に行くかどうか迷ったときは、この声に従うことにしています。 心筋梗塞のときは、体調が悪いのが1週間たっても回復しなかったので、教え子で東大病院の医師でもある中川恵一さんに連絡して、診察してもらうことにしました。そこで、心筋梗塞であることがわかり、緊急入院することになったのです。
◆「体の声」再び その「体の声」をまた聞くことになりました。今回は、声が聞こえてくる前に、長引く肩こりがありました。 肩こりは誰でも経験することで、病院に行くような症状ではありません。2024年の春頃、糸井重里さんと対談しましたが、そこでも「腰が痛いだの、肩が痛いだのっていう『自分の痛み』については、もう辛抱するしかないと思っています」と話しています。 さらに、対談の最後に糸井さんの「長い時間お話いただいていますが、もしかして、結構がまんしてくださったりして」という問いに対し、僕は「そんなことはないですよ(笑)。でも……実はさっきから少し肩が痛いです」と答えています。 ちなみに、この対談は糸井重里さんが主催するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で読むことができます。 「老い」と「死」をテーマにした対談の1つで、「生死については考えてもしょうがないです。」というタイトルでした。その第1回目の公開日が24年5月8日だったので、収録したのは4月のことでしょう。
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