「医療と距離を置いてきた僕が肺がんを見つけられた理由は…」87歳の養老孟司が病院に行くべきか迷ったときに従う<声>とは?
◆鍼灸師=娘のアドバイス 肩こりは昔からありましたが、このときは肩が痛いような感じで、1年以上前から悩まされていました。 僕は虫(昆虫)の標本づくりをしています。その作業中、何時間も同じ姿勢で手だけを動かしているので、肩がこらないはずはありません。でも、糸井さんに言ったように「辛抱するしかないと思って」と、やりすごしていました。 娘が鍼灸師の資格を持っているので、実家に娘が帰ってきたときは、いつも肩をもんでもらっていました。 すると少しはよくなるのですが、いつの頃からか、痛みが背中のほうに広がってきたのです。 背中が痛いと言ったら、娘が僕の体をいろいろ調べて、ただの肩こりでないと言い、内臓疾患の可能性もあるから、病院に行ってくれと頼まれました。 確かに、普通の痛みとは違うようです。1週間どころか、それ以上たっても、痛みが軽くなりません。寝ていても痛いぐらいで、明らかに悪化していました。 娘が言うように、「これはただの肩こりじゃねえや」と思いましたが、あんまり悪いほうに考えたくはありません。 それで、病院に行くの行かないのとグズグズしていたら、娘が中川さんに、背中の検査をしてほしいと連絡してしまったのです。
◆4年ぶりのCTの結果 中川さんは、東大病院の総合放射線腫瘍学講座特任教授で、一緒に仕事をしたこともあり、長いつきあいがあります。4年前に心筋梗塞を患ってからは、担当医の1人として体のほうも診てもらっています。 心筋梗塞の治療を終えて退院してからも、3カ月に1回、東大病院で定期検診を受けています。ちょうど24年4月30日が検診の日なので、そのときに背中の検査もしてもらうことになりました。 娘が中川さんに電話をしたとき、「ちゃんと診てくださいね」と言ったようで、中川さんは苦笑いしながら「ちゃんと診ているんですけどね」と話していました。ただ、この発言に関して、娘は否定しているようです。 その日は、まず肺のCT画像を撮りました。肺のCTは、心筋梗塞で入院したとき以来、4年ぶりのことです。 CTには明らかに腫瘍と思われるものが映っていて、それが肋骨の背中側に達しているのがわかりました。 4年間のCTには、がんはなかったので、この4年の間にできて、それが大きくなったということになります。 がんはずいぶん進行しないと自覚症状が出ないものですが、骨に達していたことで、背中に痛みが出ていたのです。 中川先生からも言われましたが、肺の真ん中に同じくらいの腫瘍ができていたら、何の痛みもないので、がんの発見はもっと遅れていたことでしょう。 幸か不幸か、骨の近くで肺がんが大きくなったため、骨にあたって痛みを感じるようになったわけです。 ※本稿は、『養老先生、がんになる』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
養老孟司,中川恵一
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