本当は怖い「英語の早期教育」子どもの脳に起こる悪影響のリスクとは?
昨今、英語の早期教育を煽る風潮は珍しくない。しかし、実は脳が発達しきっていない乳幼児に二カ国語を覚えさせることは、一歩間違えれば脳の発達に悪影響を及ぼすリスクがあるのだという。我が子を自然な形で「英語脳」に導くにはどうすればよいのか、脳科学者である著者の成功体験を綴る。本稿は、成田奈緒子『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 乳幼児を英会話教室に 通わせるのを勧めない理由 子どもに新しい刺激を与えたいと思ったとき、真っ先に浮かぶのは英語教育の必要性です。「子どもがグローバル社会で活躍できるように」と、早くから英語を学ばせようと考える親御さんは非常に多いものです。 「英語脳をつくるなら、脳が柔らかい3歳までに」「先取り学習で自信をつけさせ、学ぶ意欲を育てる」といったメディアの煽り文句を受け、まだ日本語もおぼつかない乳幼児を英会話教室に通わせる親御さんもたくさんいます。 しかしながら、こうした言説は脳育ての理論からみると間違っています。 脳科学の専門家として言えることは、バイリンガル教育は口で言うほど簡単ではないということです。むしろ、一歩間違えれば子どもの脳の発達に悪影響を及ぼすリスクがあります。 実際、私たちのもとにはバイリンガル教育に失敗した結果、子どもの脳が深刻な状態になってしまった親子がたくさん相談にみえます。 少し専門的な話になりますが、Broca(ブローカ)野という前頭葉の言語機能を司る場所があります。幼少期から母語と第2言語に接してきてうまくバイリンガルに育った人の脳では、2つの言語を司るこのBroca野の領域がより接近している、つまり2つの言語を極めて自然に行き来して使えるようになることが証明されています。
同じ現象は、他の言語を司る部位でも証明されています。ところが、これがうまくできない場合もあり、極端な場合には、第1言語は右脳で、第2言語は左脳で、というように処理する部位がとても大きく離れてしまうのです。 そうなると、例えば英語で考えたことをスムーズに日本語に言い換える、ということがそれほど簡単ではなくなります。すると、母語で習得する学習の場面でスムーズに内容を理解することができなくなるかもしれません。 このようなリスクを考えると、母国で生まれ育つ子どもに、あえて第2言語を早期から習得させようとすることは個人的にはお勧めできないのです。 中にはバイリンガル教育が功を奏し、ネイティブ並みに話せるようになる子どももいます。しかし、私は多くの患者さんを通して、上手くいかなかった事例を数えきれないほど見てきて、その深刻さを痛感しています。そうしたリスクを冒してまで、バイリンガルを育てることに躍起になる必要があるとは到底思えません。 どうしても英語を習わせたいのであれば、「何が何でもバイリンガルに」と英語を詰め込むのではなく、「私も英語が好きだし、子どもと一緒に楽しく学ぼう」と成果を期待せずに楽しむ程度に留めておきましょう。