「政府の景気回復宣言」と「国民の景況感」が嚙み合わないトホホな理由【経済評論家が解説】
景気は自分では方向を変えない
在庫循環等を考えないなら、景気の基本は「景気は自分では方向を変えない」ということになります。 景気が回復しているときは、物(財およびサービス、以下同様)が売れるので企業が増産し、そのために労働者を雇います。雇われた労働者は給料をもらうので消費します。だから、物が一層売れるのです。 物が売れているときは、企業が工場を新設するかもしれません。設備投資は鉄やセメントや設備機械の需要を増やし、それらの生産が増えるでしょう。設備投資資金も、銀行が喜んで貸してくれるでしょう。景気がよいときは企業が儲かっているので、銀行も安心だからです。 企業が儲かっていると、従業員たちも勤務先の倒産や自身のリストラを心配しなくなりますから、財布の紐が緩むかもしれません。 地方公共団体は、景気がよくなって税収が増えると「これまで待ってもらっていた公園を作る予算が捻出できました」ということで公園を作るかもしれません。 こうして、景気は上を向いているときはさらに上へいき、反対に下を向いているときはさらに下へいく、という性格を持っているのです。
景気回復宣言が出るのは「景気が2番目に悪い日」
景気が自分で方向を変えないということは、景気の方向が重要だということになります。いまの景気が悪くても、上を向いているならば時間とともに景気がよくなってくると期待できるからです。そこで、専門家たちは景気の方向を気にします。景気が回復している・拡大している・後退している、といったことのほうが、景気がよい・悪いよりも重視されるのです。 しかし、一般の人にとっては、景気がよいか悪いかが問題です。政府が景気回復宣言を出すと、かえって問題が起きることも珍しくありません。政府の景気回復宣言は、「景気の方向が下向きから上向きに変わった」という宣言であって、景気がよくなったという宣言ではないのですが、それを誤解する一般人が多いからです。 景気回復宣言が出るのは、景気が2番目に悪い日です。「昨日の景気は最悪でしたが、今日はそれより少しだけマシでした」というのが景気回復宣言ですから。しかし、〈景気回復宣言〉という言葉から「政府は景気がよくなったといっているが、実際には景気は全然よくなっていない。政府はなにをいっているのだ!」と立腹する人が多いのです。 重病人が一命を取り留めて病院で寝ていると、お医者様が「よかったですね。もう死ぬことはありませんよ。無理をしなければいつかは退院できますよ」といってくれたとします。そこで「私は全然元気じゃありません」と怒る人はいないでしょう。それと同じことなのですが(笑)。