4人が命を落としたNYの巨大アートが3年ぶりに公開再開。障がい者法への対策は未実施
自殺者が相次いだため閉鎖されていたニューヨークのハドソン・ヤードのパブリックアート「Vessel(ベッセル)」が10月22日に公開を再開したとAP通信が伝えた。 ベッセルは、マンハッタンのウェストサイドで開発されたハドソンヤードの目玉として不動産会社Related Companiesがイギリスの著名な建築家・デザイナー、トーマス・へザウィックに依頼したもので、2019年に完成した。当初の予算は7500万ドル(約11億円)だったが、最終的には2億ドル(約301億円)に膨れ上がったという。ベッセルは16階建てで、高さは約45メートル。観客は蜂の巣のように巡らされた階段をぐるぐる上りながら最上階に到達する仕組みになっており、またたくまにマンハッタンの人気スポットとなった。 だがベッセルからの飛び降り自殺が重なり、3人目が発生した2021年初頭、管理団体は自殺防止の標識の追加と警備の強化、上層階での単独行動の禁止などの対策を講じた。だがその2カ月後に起きた10代の少年の飛び降り自殺により、完全に閉鎖されることとなった。少年は家族とベッセルを訪れていた。 ベッセルは10月22日に再オープンしたが、最上階は入場が禁止されており、上層階には、床から天井付近まで鋼鉄のメッシュが張り巡らされている。また入場には日時指定のチケットを購入しなければならない。それでも再開を待ち望んでいた人々が多かったようだ。Related CompaniesのCEOであるジェフ・T・ブラウは声明で、「チケットはどこで買えるのか、いつ再開するのかと、スタッフに尋ねてくる来場者が絶えません。休業中もその関心は衰えることがありませんでした。さらに安全対策を講じた上で、世界中からのお客様を再びベッセルにお迎えできることを楽しみにしています」とコメントした。 階段に焦点を当てたベッセルのデザインについてトーマス・へザウィックが2018年にニューヨーカー誌語ったところによると、来場者に一種の疲労感を与えることで、「芸術性のことなどどうでもよくなる」ことを意図したものだという。一方で、彼の設計では障害者の利用が難しく、1990年のアメリカ障害者法にも違反していることが判明。そのため、ニューヨーク州検察局は2019年に階段昇降機の設置を求めている。 また、アート界のベッセルに対する評価は分かれるところで、美術評論家のアンドリュー・ラセスは、2024年3月にアート・イン・アメリカ誌でこう書いている。 「2019年にオープンしたベッセルは、コンピュータの画面から現実の世界にドラッグ&ドロップされたデジタルの創造物のようで、異質かつ威嚇的な印象を与える。それは、めまいがするような巨大資本と野心への空虚な賛美と言えるだろう。2021年7月から閉鎖されているが、今の時代を代表する建築プロジェクト、アート作品の1つに数えられるのは間違いない」(翻訳:編集部)
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