戦時中に殺害されたゾウ「きょうだいのように育った」少年が目撃した動物園での悲劇
■「猛獣を殺処分せよ」 1945年4月、「殺処分せよ」という命令を受け、その時が近づいてきました。最初はゾウのプールに高圧電線を流して、足を突っ込んだら感電死する、という方法を考えていたそうです。 ところが、ゾウのエリーは自分の運命を察知したのか全然寄り付かず、後ずさり。8歳の金澤さんは木の陰から見ていて「よかった、よかった、助かった!」と思ったそうです。ところが、立ち会っていた日本陸軍の幹部は、金澤さん父親に向かって「おい、お前が殺せ」と強く命じました。父親は電流が流れる棒の先にサツマイモを巻きつけて、「エリー、からいもだ」と言って食べさせました。そしてエリーは死んでしまいます。「本当に申し訳ない、とお父さんも思っていたはず」という金澤少年の気持ち。何という残酷なシーンでしょうか。 ■食べられてしまったゾウ さらに金澤さんは、衝撃的な話をしました。エリーの骨は、熊本市動物園に飾られていますが、肉は日本陸軍の食料となったのです。エリーはアジアゾウ。アジアに進出する日本の軍隊が、現地で食べられるものなのかどうか確かめてみよう、ということだったのかもしれません。 これが、敗戦4か月前のこと。ゾウの遺骨は、解体した業者が自宅に持ち帰って、40年間供養していたのだそうです。それを知った金澤さんは飛んでいってエリーと対面しました。そして今、熊本市動物園にはエリーのあごの骨が飾られています。 朗読劇のメンバーは「聞いていて、涙が出てしまって」と話していました。RKBの取材にも丁寧に話し、記者も感銘を受けたようです。このもようは11月27日のRKBテレビ『タダイマ!』の中で放送する予定です。私はコメンテーターとしてスタジオ出演します。金澤さんに直接会えなかったので、とても楽しみにしています。 ■軍政下のミャンマーに思いを馳せ ゾウは動物園の花形。と同時に、戦争の悲劇も考えさせられる存在です。11月30日から福岡市動物園で公開されるゾウを見た時、戦争のことも考えてみてほしいと思います。 3頭はミャンマーから来ました。福岡市は2016年にミャンマーのヤンゴン市と姉妹都市提携を結び、2019年に動物交流の覚書を締結しています。ところがその後、2021年にミャンマーでクーデターが起き、軍事政権となりました。国内で大変な人権侵害が起きています。 その後ウクライナ戦争やガザ侵攻などいろいろなことがあり、ミャンマーに日が当たっていない感じがします。しかし、ミャンマーの状況は変わっていないので、本当はそちらにも気を回していかなきゃいけないと思います。 福岡市動物園にゾウが来ることについて、ミャンマーの一部の人から反対声明が出ています。「日本が軍事政権を支持している」という誤ったメッセージを流してしまうのではないか、という抗議です。 福岡市としては、動物を通じての交流を進めるということなので、軍事政権とは関係がないということかもしれませんが、軍事政権側からすれば、国外でも認められるようになっている、というプロパガンダに使う可能性はあります。 本来はゾウをみんなが楽しく見る場所ですが、ミャンマーの現状を知らせるパネルでもあった方がいいんじゃないか。交流の相手国を傷つけることもできないとか、いろいろな要素があるかもしれませんが、今ミャンマーで何が起きているかは意識しておいた方がいいのではないでしょうか。