阪神大震災の3週間前に生まれた神戸市職員、能登で知る「被災地」
阪神大震災の3週間前に生まれた神戸市職員の男性(30)が、4月から能登半島地震の被災地・石川県珠洲(すず)市役所に1年間、応援職員として派遣されている。30年前の記憶はないが、倒壊家屋のがれきが散乱する現地を目にし、日常のありがたみを実感した。「能登での経験を生かし、災害への危機感を伝えたい」と誓う。(神戸総局 村越洋平)
珠洲市役所で働くのは、神戸市広報戦略部の藤沢正之さん。同市垂水区の実家に大きな被害はなく、家族にけが人はいなかったが、物心つくと、誕生日の度に両親から「街がめちゃくちゃになり、故郷を離れざるを得なかった人や、思い出の家を泣く泣く取り壊した人がいる」と聞いて育った。
民間企業に勤めた後、兵庫県たつの市職員を経て、「地元で働きたい」と2022年に神戸市職員になった。元日の地震後、能登の惨状を見て「何かできることはないか」と、被災地派遣職員の募集に手を挙げた。
「あの時もそうやった」
着任後は、想像を超える被害に驚いた。震度6強の揺れで住宅など約3800棟が全半壊し、津波にも襲われた被災地ではまだ、倒壊家屋に車が埋まったまま。地面から飛び出たマンホールも手つかずだった。父親に電話で伝えると、こんな言葉が返ってきた。「阪神大震災の時もそうやった。今では信じられへんやろうけど」
6月、余震で初めて震度5強の揺れを体感した。数日間寝付けないほどショックを受け、「神戸で当たり前に暮らせることがどれだけありがたいことか」と思った。
珠洲市役所では、ホームページの更新や支援制度の発信など広報業務を担当。9月に豪雨災害に見舞われた際は、二重被災した市民の負担を少しでも軽くしようと、罹災(りさい)証明などの申請に必要な情報をわかりやすい一覧表にしてホームページやSNSで伝えた。
災害の怖さ、本気で伝えていく
地元ケーブルテレビの番組制作にも参加し、ナレーションで出演、イベント取材を手伝った。番組制作を担当する市嘱託職員の巽通敏(たつみみちとし)さん(53)は、丁寧に情報発信する藤沢さんの姿に「神戸からわざわざ来て、一生懸命働いてくれて本当にありがたい」と感謝する。