旧ビッグモーターの経営を引き継いだWECARS、火中の栗を拾った田中慎二郎社長が挑む組織風土改革の現在地
田中 私は創業家の方たちと話したことがないため、どういう思いで経営してきたかについては分かりません。ただ、やはりずっと右肩上がりで業績を伸ばしていく中で、店舗を出せば儲かるという状態だったので、拡大路線を急いだということはあると思います。 急拡大の悪い面は、どうしても企業文化の継承や人づくりがおろそかになることです。非常に若い従業員が多く、20代の店長もたくさんいる状態でしたので、どっしりと構える部分が欠けていたのは事実だと思います。 ■ 社長就任の決断を後押しした「再建チーム」への信頼 ──田中さんは伊藤忠商事出身ですが、WECARSの社長就任に当たり伊藤忠の岡藤正広会長から何か激励の言葉をかけられましたか。 田中 最初に言われたのが「組織風土改革は大変なので、心してやってほしい」ということでした。 次々と問題が発覚していた当時、私は日本にいなかったので報道されていること以上の知識はありませんでした。そのため、新会社の社長就任を打診された時はもちろん驚きました。 ──就任を決断した理由は。 田中 会社がどうこうというよりは、自分が再建できるのかをじっくりと考えました。これほど大変な会社をマネージメントするには、「心技体」が揃っていなければ難しいですし、その心構えがあるか、スキルとノウハウを持っているか、体力はあるか……と自分自身に問いかけました。 幸い「技」の部分では、北米の建材卸会社の建て直しとか、イギリスではクイックフィットというタイヤ販売と車検業務で720店舗を持つ会社を任されてきた経験があるので、多少の知見はありました。それ以外にもほとんどのキャリアを事業会社で積んできたため、商社とは文化の違う会社に入ってやっていくことには慣れていました。 ただ、やはり中途半端な気持ちではいけないので、最も考えたのは「心」の部分です。この案件は岡藤会長がYesと言わなければできない案件でしたし、事業買収業務の中心となったのは、社内で「チーム吉田」と呼ばれる吉田朋史・伊藤忠エネクス社長を筆頭としたメンバーですが、私はこれまで彼らと共に仕事をする機会も多く、さまざまな案件を一緒に手がけてきましたので、心強かったことはあります。 吉田社長は私がアメリカに赴任していた時の部門長で、途中から住生活カンパニーのプレジデントになりましたし、WECARSの改革貫徹本部長で副社長の山内務は私がイギリスにいた時の東京の部門長。アメリカにいたころは山内が住生活カンパニーの経営企画部長でしたので、共に事業買収・再生案件を手がけてきました。 この他にもこれまで一緒にやってきたメンバーが多く、今回もチーム吉田が関わっているということで、大丈夫だと思いました。 ──数々の事業再建の経験から、駄目になる会社の共通点は何だと思いますか。 田中 もちろん商品が強い、弱いといった要因もありますが、共通しているのは組織風土など人に関わるところの問題です。ビッグモーターでさまざまな問題が起きたのは、経営の部分と、お客様に相対している根幹の部分である現場ともに何かがおかしかったのではないかと感じます。 ビッグモーターの店舗は240以上あり、指定工場の板金工場と整備士を抱え、売上高も最盛期には6000億円近くありました。短期間で中古車業界の中でトップクラスになった非の打ちどころのない会社でした。それでも問題が起きたのは、やはり人間的な部分や業務の仕組みでガバナンスが機能していなかったからだと思います。