日本版スタートアップ・エコシステム。起業家たちの10年間の軌跡
日本のスタートアップ産業は黎明期から飛躍的な発展を遂げた。10年が経過した今、起業家たちに求められているのは、一段上のステージでの活躍だ。 この10年間、日本で最も発展した産業は、スタートアップだと言っても過言はないだろう。Forbes JAPANでは2014年の創刊以来、「新しい日本」をつくる存在として起業家たちの活躍を追い続けてきた。この期間は、スタートアップ・エコシステムが黎明期からひとつの産業といえる規模に発展してきた歴史といえる。 グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)の仮屋薗聡一は、「起業家の社会的認知がマイノリティな怪しい存在から、未来を担う魅力的な存在へと変わった10年だった」と総括する。ベンチャーブームは過去の歴史でも何度か起きていたが、10年ごろまでの起業家に対する社会の目は、どちらかといえばオルタナティブなアウトサイダー的存在。スタートアップは産業としての体を成しておらず、特にリーマンショック以降はリスクマネーの供給も低迷する逆風が吹いていた。 流れが変わったのは、13年に始まったアベノミクス以降だ。成長戦略の柱にスタートアップ振興が盛り込まれ、銀行や事業会社の資金が流入し始めた。エクイティによる資金調達という手法が浸透すると、有力なスタートアップは次第に頭角を現し、IPOやM&Aの件数も増加。18年に初値時価総額6766億円で上場したメルカリを筆頭に、実績を上げる企業が出てきたことで、機関投資家からも投資対象として評価され始め、さらなる資金が流入する循環が生まれた。 JICベンチャー・グロース・インベストメンツ(JIC-VGI)代表取締役社長の鑓水英樹は、「あらゆる文化・文明・産業の発展の原動力となるのは流動性だ。スタートアップ・エコシステムの流動性を担う人・モノ・金の3要素は、まさに今すべてが動き始めた段階」と話す。最初に動いた「金」は、この10年で量・質ともに大きく拡大。23年のスタートアップ資金調達総額は7536億円と8倍以上に膨らみ、最近では100億円以上の調達に成功する企業も珍しくなくなった。 「人」については、起業家の数が増えただけでなく、その性質の多様化が進み、明らかに層が厚くなっている。一部のとがった人だけが起業家になると思われていた時代は通り過ぎ、現在では、コンサル出身者やアカデミア、20代の若手、学生起業家、さらにはスタートアップで成果を収めた人材が新たに起業する事例も増えている。SmartHR創業者でNstock代表の宮田昇始、ラクスル創業者でジョーシス代表の松本恭攝などはその一例だ。