進化するスポーツ エージェンシー の役割:アスリートとブランドを結びつける新たなマーケティングモデル
NIL判決と女子スポーツへの投資拡大
今日のプレイヤーは、興味を持ったブランドとかかわらないことで得られなくなる収入のことを以前より気にかけていると、シャー氏は述べる。「プレイヤーたちは、過去の世代が行っていたのとは異なることを要求している。過去の世代は、サッカーの試合に出てお金が得られるなら、ほかのことについては与えられた条件に喜んで従っていた」と、同氏は述べている。 このような理由から、クラッチやビーエンゲージドのようなハイブリッドのエージェンシーが誕生した。一部の従来型エージェントがこのようなビジネスに参入したがらないことから、新しいエージェンシーが展開できるような空白が存在していると、シャー氏は述べる。あるサッカーエージェントが「ソーシャルメディアは消えてゆき、プレイヤーがフットボールだけをしていればいいという時代は終わるだろう」と述べたことがあると、同氏は回想する。 視聴者のWSL(ウィメンズスーパーリーグ)とWNBAへの関心が高まりつつあることから(WNBAの試合は今シーズンに平均130万人がTVで視聴し、これは昨年の3倍に相当する)、女性スポーツに広告主の資金が集まりつつある。 「爆発的な人気だ」と、エウェイズ氏は述べる。クラッチは近年この分野に投資して、女子バスケットボールの責任者としてエージェントのジェイド・リー・イングリッシュ氏を雇用し、さらに多くのWNBAプレイヤーをクライアントとして呼び込んだと、同氏は述べている。 「正しいことだと考えたから関与するというだけではない。ビジネスとしても優れている」と、同氏は述べている。 一部のエージェンシーはこの分野に特化して利益を得ている。たとえば、エーアンドブイスポーツ(A&V Sports)は女子サッカープレイヤーのみに特化している。「当社はおそらく、女性のみに特化し、専門の商業部門がある唯一のエージェンシーだろう」と、同エージェンシーのスポンサーシップ責任を務めるアンドリュー・アービング氏は語る。 エーアンドブイは、名簿に記載されているアスリートについて可能性があるブランドの契約を追い求めるとともに、アスリートとクラブやチームとの関係を管理している。クラッチのようなエージェンシーよりは規模が小さいビジネスなので、まだコンテンツの制作は扱っていない。 しかし、これは今後変化するかもしれない。同社は現在コンテンツ制作作業の多くを制作エージェンシーに外注しているが、将来的には自社独自の制作能力に投資することを検討すると、アービング氏は述べている。 米国では、最高裁が2021年に下したNIL(名前、画像、肖像)の権利に関する判決により「この分野の構図の大幅な変化が引き起こされた」と、ガートナーのロス氏は語る。これにより、ソーシャルに明るい何千人もの学生アスリートがブランドとの契約によって収入を増やす道が拓かれた。 「何万人ものアスリートが突然、自分自身の代理人としてスポンサーとやり取りできるようになった」と、ロス氏は説明している。 ことしのオリンピックで、各ブランドは自社のクリエイター名簿に新しい大勢の選手を加えることになるかもしれない。たとえばエーアンドブイのクライアントのうち12人は、オリンピックの終わりまでに競技に出場する。 米国外で、女子アスリートに投資される金額は依然として、男子プレイヤーよりも少ない。エーアンドブイの100人の名簿にはノルウェーのバロンドール(Ballon d’Or、サッカーのノーベル賞とも目される賞)受賞者であるアーダ・ヘーゲルベルグ氏や、過去の同賞の受賞者も含まれているが、もっとも求められている同エージェンシー所属のプレイヤーは毎年5つか6つのブランド契約を獲得しているのではないかと、アービング氏は推定している。 しかし、女子スポーツが成長するにつれ、契約の規模と数量は増大するとアービング氏は予測する。「今後は増加の一途となる」と、同氏は述べている。 [原文:As athletes embrace influencer work, ‘a new breed of agency’ emerges] Sam Bradley(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:坂本凪沙)
編集部