iPSから作った細胞、生きたまま24時間以内に米国へ空輸…住友ファーマ、パーキンソン治療を計画
米国でのパーキンソン病治療に向け、製薬大手の住友ファーマが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経細胞の「空輸作戦」に乗り出す。大阪の工場で作った生きたままの細胞を良好な状態で届けるため三菱倉庫と稲畑産業、日本航空とタッグを組んだ。日本の細胞作製技術の輸出の先駆けとなりそうだ。(科学医療部 松田祐哉)
パーキンソン病は運動にかかわる脳の神経細胞が減り、震えやこわばりなどの症状が出る難病。国内では京都大が2018年、人のiPS細胞で作った神経細胞を脳に投与する治験を始めた。住友ファーマは細胞の製造を担い、国への承認申請の準備を進めている。
グローバル展開を目指し、米カリフォルニア大サンディエゴ校の臨床試験に同社の細胞を提供することになった。今年度中にも関連病院で1例目の治療を実施予定だ。開発を円滑に進めるため品質が安定した細胞を日本から送ることにした。大阪府吹田市の自社工場で作製し、生きたまま2~8度の温度で空輸する。
ネックは時間とともに細胞の品質が落ちることだ。品質保持の観点から「24時間以内」に現地に届ける目標を設定。20年頃から航空機での輸送試験を始めたが、当初は40~60時間を要した。
同社再生・細胞医薬事業推進室の吉本篤史さんは「どこで滞っているかがわからず、計画断念も頭をよぎった」と振り返る。
そこで、21年から医薬品の物流に強い三菱倉庫や商社の稲畑産業に協力を依頼。22年には日本航空も加わり、スピードアップに挑んだ。細胞の入った箱を「最優先の貨物」として扱ってもらい、通関業務や国内外での積み下ろしを最短時間で行うよう改良を重ねた。
10回以上の輸送試験を経て、安定的に24時間以内で届けられるルートを確立。8月22日、関西空港発ロサンゼルス行きの定期便で行った最終試験も計21時間14分と、目標を達成できた。
1例目の実施に向け、舞台は整った。吉本さんは「臨床試験を成功させ、世界の患者に新しい治療を届けたい」と意気込む。