”道渕問題ショック”に揺れるJ1仙台が最下位脱出に失敗「このメンバーでやれることをやるしかない」
放ったシュートは90分間を通してわずかに1本。しかも、名古屋グランパスゴールの枠を大きく外れてしまった。得点を奪えなければ、必然的に勝利を手にすることはできない。 ピッチ外でさまざまな問題に直面しているベガルタ仙台が0-1で敗れ、連続未勝利試合をクラブワースト2位となる14(4分け10敗)に更新。最下位からの脱出に失敗した。 敵地・パロマ瑞穂スタジアムに乗り込んだ24日の明治安田生命J1リーグ第24節。ベガルタを率いる木山隆之監督は浦和レッズに0-6の大敗を喫した18日の前節から、先発メンバーを5人も入れ替えて必勝を期した。交際していた女性への暴言や暴行が20日発売の写真週刊誌『フラッシュ』で報じられ、同日に契約を解除された道渕諒平(26)も先発リストから名前が消えた一人だった。 道渕が主戦場としていた右サイドハーフで2試合ぶりに先発した34歳のチーム最年長、関口訓充の突破から最大のチャンスが生まれた。後半14分に自陣から仕掛けたカウンター。関口がペナルティーエリアの右から絶妙のクロスを送るも、ニアサイドへ飛び込んできたFW長沢駿がコンマ数秒遅れ、ボールはグランパスの守護神、ランゲラックにがっちりとキャッチされてしまった。 しかし、この場面以外はチャンスの予感すら漂ってこない。キックオフ前の時点で5位につけるグランパスに対して、木山監督は先に失点をしない展開に比重を置いた上で、身長192cmの長沢、同185cmのアレクサンドレ・ゲデスの長身2トップにロングボールを集める戦法をとった。 「前半から攻め込まれる時間が多かったなかで、全員で耐えながら試合を拮抗させられたことはよかった。ただ、いい形でボールを取ることが少なかったし、何回か取れたときにも2トップへいいボールを入れることすらままならなかった。それだと、シュートまでもち込むのが難しかったのかな、と」
シュート数がわずか1本に終わった理由を、木山監督は前節からの5日間で積み重ねた準備が、ピッチ上で具現化されなかったことに帰結させた。前半13分に長沢が放った唯一のシュートも、関口のスローインから右サイドを抜け出したゲデスが上げたクロスに頭を合わせたものだった。 対照的に中2日のグランパスは14本ものシュートを放った。そのなかの一本、後半20分にボランチの稲垣祥が決めた千金の決勝点は関口、ボランチの椎橋慧也が左右からブロックに飛び込んでくる状況で、利き足とは逆の左足を迷わずに振り抜く思い切りのよさから生まれた。 椎橋の足をかすめてコースを山なりに変えた一撃が、再三のビッグセーブでゴールマウスを死守してきた守護神、ヤクブ・スウォビィクの牙城に風穴を開けた。シュートを打たなければ何も起こらない。サッカーの原点を突きつけられた、ポーランド代表歴をもつ29歳は努めて前を向いた。 「勝ちたかったゲームなので非常に残念だ。ただ、この苦しい時期は近々終わると信じているので、次の試合へ向けて、強い意思をもっていい準備をしていきたい」 ドメスティック・バイオレンス(DV)が報じられた道渕との契約解除に端を発する形で、ベガルタは混迷状態に直面した。翌21日には所属選手を誹謗中傷するコメントを個人のSNSに投稿するのをやめてほしいと訴える声明が出され、さらに22日には今年度決算で債務超過に陥る見込みの経営危機を救ってほしいと、9月下旬から呼びかけられていた「クラブ緊急基金」の中断が発表された。 8月中旬に道渕のトラブルを把握していたベガルタは、女性との間ですでに示談が成立しているとして事案を公表せず、9月20日からはリーグ戦に復帰させてきた。しかし、度重なるDV行為だけではなく、傷害容疑で宮城県警察に逮捕されていたと報じられると、経営陣が知り得なかった事実がクラブ内の秩序や風紀を乱すという理由で、一転して契約解除に踏み切っていた。 仙台市で生まれ育ち、アカデミー出身でもある看板選手の不祥事に対する、経営陣の首尾一貫しない対応が隠蔽行為にあたるのではといぶかしまれ、世間の風当たりが強まる状況を招いた。しかし、ピッチのなかにおける混乱は、実はシーズンが開幕した当初から懸念されたものだった。