アイドルグループの歴史を変えた、夏まゆみの「叱り方」――モーニング娘。の「育ての親」と呼ばれる理由
可能性を閉ざさないよう、「大きい世界」を意識させる
モーニング娘。を指導したのち、2005年からAKB48の立ち上げに携わる。振付のみならず劇場の演出にも関わった。夏先生が再びモーニング娘。の現場に携わったときの一人が、モーニング娘。'23の現役メンバーでサブリーダーを務める石田亜佑美さんだ。石田さんは2011年9月に10期メンバーとしてモーニング娘。に加入するが、その10期オーディション合宿は、夏先生が最後に担当した合宿だった。 「ダンスを習っていたこともあり、合宿では自信満々で受けていたんです。しかし夏先生から『確かにあなたはいま踊れるかもしれない。でもそれはこの小さな世界だけの話で、モーニング娘。になったらもっと大きい世界になるからそこでは全然よ』と鼻をへし折っていただいたんです」 すでにモーニング娘。はダンスが売りのグループへと成長していた。石田さんのように、ダンスに自信がある女の子もオーディションを受けるようになっていたが、夏先生はスキルをさほど重視しない。「できる」と思い込む人ほど、自分の可能性を閉ざしてしまいがちになるからだ。
石田さんは、「小さな世界」と言われたその厳しい言葉が「うれしかった」と言う。2018年、モーニング娘。が20周年を迎える際に「モーニングコーヒー(20th Anniversary Ver.)」で振付指導を受けたときのことをこう振り返る。 「ダンスはダンス、歌は歌で、『歌って踊る』というのはそれぞれ別の作業だと思っていたんですけど、夏先生は『音を表現するために振付がある』と教えてくださいました。私はダンサーではなく、モーニング娘。の曲を表現するためのダンスを踊れるようにならなきゃいけないなと、そこで強く意識が変わったんです」 スキルがある人を叱るのは簡単ではない。同じ「叱る」でも「LOVEマシーン」の頃から進化した叱り方を身につけた夏先生の言葉は確かに届き、一つの道を石田さんに示した。