アイドルグループの歴史を変えた、夏まゆみの「叱り方」――モーニング娘。の「育ての親」と呼ばれる理由
夏先生は、「一対多数ではなく一対一を人数分で接する」という指導方針を、前述の著書で書いている。複数人や集団を教える際には「全体」に向けて話をしがちになるが、それでは個々人に伝わらないため、あくまで「一対一」を人数分で接しなければいけない。レベルが異なる教え子たちを指導し、全体としてもレベルを上げるためには、この「一対一を人数分」を徹底するしかないと語る。 とはいえ、人数分、個別指導するわけにもいかない。だから、一人ひとりと目を合わせ、言葉がけすることで、AKB48時代には最大70人ほどいた教え子との関係性を築いた。 後藤さんもこう振り返る。 「『見てくれている』のがわかると安心感が生まれました。『何をしても受け入れてくれる』と安心できるとその後はどんどんぶつかっていけるし、見せたい自分を見せたりすることもできる。そういうことが自信につながっていたんだと思います」
「成長する言葉」を交ぜて効果的に叱る
「LOVEマシーン」の大ヒットでモーニング娘。が国民的アイドルグループになると、ダンスプロデューサー「夏まゆみ」の名前も、より広く知られるようになった。「モーニング娘。の育ての親」のイメージで語られ始めるのもこの頃だ。宝塚歌劇団や郷ひろみなど、多様なアーティストに振付を指導することもあった。 多様な指導を通して行き着いたのは、教え子をただ叱ったり褒めたりするのではなく、「成長を促す言葉(成長言葉)」に言い換えて伝えるという方法だった。 例えば、叱る場面では「なんでこんなことができないんだ!」と責めるのではなく、「惜しいな。ここで手を抜かなければもっとファンは増える。ここで頑張らないのはもったいない!」と、「惜しい」「もったいない」を交ぜて伝える。「プロとして失格だ!」というのではなく、「プロとしてどうなんだろう?」と疑問形で叱る。逆に失敗した場面では、「いま間違えてよかったな!」「正直に申告してえらいぞ!」「自分で間違いに気づくことがすばらしい!」と褒めて、失敗を自信に変える。 相手によって効果的な言い方は変わるものの、成長言葉は「道を示す言葉」か「自信を与える言葉」の2種類。一人ひとりにこの言葉をかけた。後藤さんは夏先生に生き方を学んだという。 「夏先生がいなければ、『国民的アイドル・モーニング娘。』に育つことはなかったと思うんですよ。私自身は夏先生がいなかったらたぶん、言うこと聞かない子どものままだったと思います(笑)。指導のおかげで更生された感までありますから。『生きるとは』ということを教わりました」