《ブラジル》記者コラム=魂が洗われる瞬間に立ち会う=天国で先人が微笑む歴史的な日=政府謝罪が実現した意義とは
「夫はきっと天国でカチャーシー踊っています」
23日晩、沖縄県人会会館前を出発したブラジリア行きの中で、高良律正会長自ら司会して、車中の58人一人一人に恩赦委員会に臨む心情を語らせた。被害者の佐久間ロベルトさんの妻千枝子さん(82歳、2世)は「夫は3年前に亡くなったが、彼の夢は実現した。彼は7歳の時にサントス事件に遭い、以来ずっとその記憶に苦しんできた。警察がきて強制退去が告げられ、周りの住民が寄ってきてあらゆる持ち物が目の前で平然と盗まれ、追い出された。彼はその経験を生涯、決して忘れることはなかった。その時彼の母は臨月で、父が警察に『生まれるまで待ってくれないか』と交渉したが、『24時間以内に立ち退かないと逮捕する』と脅され、わずかな手荷物だけ持って泣く泣く退去した。夫はその経験をいろいろな人に語ろうとしたが、誰もその事実を知らず、事件の重大さを理解せず、とても悲しんでいた。松林監督がそのエピソードを取材にきて撮影してくれた時、本当に感謝していた。映画に出れて本当に喜んでいた。あの映画ができ、あちこちで上映会が行われたから、これだけ理解が広まった。夫は今日来ることはできなかったが、きっと満足しているでしょう。ロベルトの魂はいまきっとカチャーシーを踊っていると思う」と涙ながらに語った。聞く側も、涙なしには聞けなかった。 この佐久間ロベルトさんのエピソードは、本人が映画『オキナワ サントス』(松林要樹監督、2020年)内で語っている。アマゾン・プライム・ビデオなどで視聴可だ(2)。ブラジル沖縄県人移民研究塾『群星』(宮城あきら編集長)はサントス事件の特集号別冊を発行しており、そこにも佐久間さんの証言は書かれている。 サントス強制立退き事件を初めて扱った同映画で証言した被害者本人のうち、8人がすでに亡くなった。まるで映画で語るのを待ってから、あの世に旅立ったかのようなタイミングだ。また一人、もう一人と亡くなるにつれ、松林監督の双肩には「必ず映画を完成させて」という無言の圧力がかかっていたに違いない。 実際、当日の会場には亡くなった本人の子孫が多く姿を現し、天国にいる本人に代わって壇上で皆の代弁をする奥原マリオ純さん、島袋栄喜さん、比嘉玉城アナマリアさん、宮城あきらさんを後押ししていた。