約15億円の赤字転落…横浜DeNAはプロ野球界を襲う新型コロナ禍の経営危機をどう乗り越えるのか?
前出したスポーツビジネスの基本である4本柱の、それぞれの成長努力を続けたいという。例えば、マーチャンダイズ部門では、大きな利益を上げることに成功したベイスターズ独自のクラフトビールを一般市場で売りたいとの戦略がある。 「量産化には準備はいるし、価格も変えなければならないが、スタジアム外で安定して売り上げを作れれば、球場ビジネスのような新型コロナの打撃を受けないですむ」と木村社長。 球場外ビジネスに目を向け、商品力のある商材が全国規模で売れれば、確かに人数制限の影響は受けない。昨年はJR横浜駅内の新エリア「エキュートエディション横浜」に飲食店舗の「COFFEE AND BEER&9」をオープンした。 そして木村社長が「チャレンジしたい」というのは“5本目の柱”を見つけることだ。 「まだ軸になるものは見つかっていないが可能性がある」と見ているのがデジタル部門。実は2020年から新たな分野を切り開こうとデジタルを含む新規事業部門を球団に創設・拡充する計画があった。 昨年から「バーチャルハマスタ」という仮想空間にファンを集める試みを仕掛け、今季の本拠地開幕戦でも第3弾を開催し数千人規模のファンが集まった。また「オンラインハマスタ」などの企画も実施した。東京大学工学部航空宇宙工学科卒で、南場智子オーナーが「バリバリの理系」と期待を寄せる“異能の社長”だからこそ、最新のデジタル技術でファンを引き付けることができないか、と頭を使う。 現在はルール上できないそうだが、ドローンからの映像や、これまでなかったアングルからの映像、「野球版プラネタリウム」のような空間を作れないかという画期的なプランも温めている。選手のプレーに支障をきたす危険性がありシーズン中は難しいが、Bリーグの川崎が成功例を作っているYouTubeを使った様々な企画も模索したいという。 「今クラブハウスが話題ですが音声という点にも注目しているんです」 トークを楽しむ音声版SNSの「クラブハウス」がブームだが、「例えば選手が打席で感じる音はどうなのか。外野席の応援はどう聞こえているのか。そういう通常では体験ができないものを提供できたら面白いかも」という。リピートを増やし、それらの施策をどう収益化するかという課題もあるが、「ファンとチームのつながりをより深くするためのものになれば」との狙いがある。スタジアムに“日常”が戻ってきたとき、またスタジアムをブルーに染めるための努力は継続しておかねばならない。 「新型コロナが収束し、元の状態に戻ったときに10パーセントとは言わないが、たとえ3パーセントでも、これまでにプラスになるようなモノを今だからこそ作っておきたい」 木村社長は、ウイズコロナからポストコロナの時代へ「ピンチをチャンスに変えたい」と攻めの姿勢だ。 そして経営危機脱出の最大の起爆剤は優勝だという。 横浜DeNAは、チームの勝ち負けに左右されずにスタジアムが埋まるビジネススタイルを標榜してきたが、「スポーツビジネスは勝利と密接。優勝すれば、かならずプラスアルファ、ボーナス的な要素が出てくる。なんとしても勝ってもらいたい」と願う。 開幕9戦目にして今季初白星。スタートでは足踏みしたが、ここからの巻き返しを図る三浦ベイスターズの勝ち負けは、新型コロナ禍の経営に影響を与える重大要素となる。 そして難局を乗り切る上で決して忘れてはならないものがある。なぜ公共財とも言われるプロ野球球団を持っているのかという理念である。 経営権を取得し10周年となる今季、横浜DeNAは、新コーポレートアイデンティティ(CI)「心を打つ野球。」を制定した。新CIのミッション、ビジョン、行動規範も新たに制定され、ビジョンは「100年先へ野球をつなごう」「この横浜で感動を分かち合おう」とされている。 「私たちは、100年後まで野球文化を守らねばなりません。その思いがあるからこそ今年制定したCIにその言葉を入れました。コロナ禍の厳しい状況ではありますが、失敗を恐れずに前向きに次々と新しい挑戦をしたいのです」 ペナントレースとは別の経営者の生き残りをかけた戦いが始まっている。(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)