玉森裕太が全女子を沼らせる…心を打つ演技の秘密とは?ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』考察レビュー
胸キュンもストレートに演じる
また、ゲームセンターで遭遇したときに、表情を柔らかくして自分のことを少しだけ語ったり、ボクシングジムをクビになったと明かすほこ美に、呆れた表情を浮かべたり。 ほこ美が縄跳び500回に挑戦していると男性たちに絡まれるシーンでは、海里がひょいと現れ、敵に鋭い視線を向ける。2人が逃げ隠れた時には、雨に打たれた濡髪をかきあげ、ほこ美にレザージャケットを掛けてあげる優しさを。 その場を離れようとするほこ美の手を掴んで「もうちょっとこのまま」と強引な一面と、ストレートな胸キュンもやってのける。海里がほこ美に餌を蒔いたと話していたが、それは視聴者にも響いたはず。 続く第3話。海里がほこ美にバンデージを巻いてあげるのだが、その時の生き生きとした表情で序盤からストーリーに引き込む。 常に淡々としていて、全てを諦めたような口ぶりの海里。でも心の奥底にはくすぶったものがちゃんと据えられている。 トラウマを抱えた重みを感じる、含みのあるポーカーフェイスがお見事だ。そして放つ言葉とは裏腹に、柔らさと深みのある声が重なり、葛谷海里という人物のことが知りたくなるのだ。
心の機微をていねいに演じる玉森裕太の芝居
第4話、5話と進むにつれて、海里に降りかかった出来事が明らかになっていく。悲しみや、悔やんでも悔やみきれない過去…そして再び荒んでしまう海里。しかし、第5話の終盤、ほこ美の温かい心に触れ、まるで大きな氷の塊が溶けていくかのように、たまらず涙を流していた。 ボクシングはパンチの強さだけで戦うのではなく、持久力、そして精神力も試される。涙のシーンからは、元ボクサーの海里がどれほどものを一人背負って生きてきたのか、その重みが伝わってくるようだった。物語が深まっていくのに連動して、玉森の演技にも拍車がかかり、心の機微をていねいに、ごく自然に表現している。 ほこ美が現れたことで、海里が固く封印していた扉が少しずつ開かれていくようで、単なる“クズ”ではない海里の魅力が少しずつ明らかに。序盤で羽根木ゆい(岡崎紗絵)から「あいつには関わらない方がいい」と言われていたのが懐かしい。 奈緒が見せる親しみやすいキャラクターとコミカルな表情。それに対して、玉森の繊細な表情の変化で見せるキャラクターとの対比も、本作の見ごたえにつながっている。 物語は早くも後半戦に差し掛かっている。ここから、ほこ美や海里がどんな方向へと進むのか。きっと玉森の演技も凄みを増していくに違いない。 【著者プロフィール:柚月裕実】 エンタメ分野の編集/ライター。音楽メディア、エンタメ誌等で執筆中。コラムやレビュー、インタビュー取材をメインにライターと編集を行ったり来たり。SMAPをきっかけにアイドルを応援すること四半世紀超。コンサートをはじめ舞台、ドラマ、映画、バラエティ、ラジオ、YouTube…365日ウォッチしています。
柚月祐実