トランプに寄生し「アメリカ支配」を目論むイーロン・マスクの飽くなき野望
マスクの賭け
マスクは、自身の政治活動委員会「アメリカPAC(政治活動委員会)」を立ち上げ、これまでに約1億2000万ドルを同委員会に注ぎ込んでいる(10月31日付のNYT参照)。その大半は、激戦州におけるトランプ氏の選挙運動を支援する調査活動の資金として使われている。そのほか、批判の的となっている潜在的な有権者向けの現金配布や、100万ドルの抽選会にも使われている。 これは、選挙戦の行方が微妙な州の有権者に対して、嘆願書に署名し、個人情報をマスクの政治活動委員会に提供すれば、投票日まで毎日100万ドルが当たるチャンスが得られるという取り組みだ。だが10月28日、フィラデルフィアの地方検察官は、政治的公約を引き出すために「違法な宝くじ」を実施したとして、マスクとアメリカPACを提訴した。 興味深いのは、マスクとトランプの蜜月が、今年4月に深まったとみられることである。早期投票や不在者投票を嘲笑(ちょうしょう)していたトランプに対して、「ジョージア州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州で勝利するには、そうした票を獲得することが必要だ」とマスクがトランプにテキストメッセージを送った。 するとその夜、トランプは自身のソーシャルメディアのトゥルース・ソーシャルに、「不在者投票、早期投票、選挙当日投票はすべて良い選択肢だ」と書き込んだのである(NYTを参照)。トランプがマスクの意見に耳を傾けたことで、封建的な双務関係に近いものが成立したのかもしれない。
トランプへ忠誠を誓う
加えて、マスクは自らの「荘園」であるXを使って、露骨なトランプ陣営擁護を行っている。9月、独立系ジャーナリストのケン・クリッペンスタイン氏が、共和党副大統領候補のJ・D・ヴァンスに関するハッキングされたとされる資料を掲載した記事を公開した。すると、Xはこの記事の配信を停止しただけでなく、彼のアカウントも停止した。その後、Xのアカウントは回復されたが、配信可能プラットフォームSubstackに投稿した記事へのリンクは、Xでは依然としてブロックされたままである。 いわば、トランプへの忠誠をよりアピールすることで、「もしトラ」後をにらんでいる。マスクは、トランプに政府の無駄遣いに対する監察官のような役割を申し出ており、「政府効率化省」(Department of Government Efficiency, DOGE)のようなアイデアを何度も提案している。 10月27日の集会では、DOGEが国防総省、教育省、国土安全保障省の予算を合わせた額をはるかに上回る2兆ドルを連邦予算から削減すると豪語した。ただし、DOGEのような行政機関の長にマスクが就けば、彼は自分のビジネスの維持・拡大のための取引材料として、この権限を利用しかねない。 このように、「もしトラ」となれば、「トランプ国王」のもとで「マスク領主」のような者が自分の私益のための行政を行うようになるだろう。
塩原 俊彦(評論家)