進次郎は失墜するも‥‥シルバー世代にくすぶる「解雇規制見直し」への焦燥感
関東地方在住で、まもなく70歳を迎える伊藤淳一さん(仮名)は、契約社員として週5日、1日8時間のフルタイムで働く。仕事は病院の防災センターでの設備管理。エアコンフィルターの掃除といった屋外での仕事が多く、夏場は体重が4.5kg減る。そんな重労働も今年で10年目を迎えた。 「空き家になった実家の固定資産税、孫6人へのお年玉や誕生日プレゼントに入学祝い...。年金だけでは心もとないし、家にいてもお金にはならないですからね。」(伊藤さん) 伊藤さんは専門学校卒業後、大手家電メーカーの事務職として約30年間勤めていたが、54歳でリストラに遭い、暗転。短期の仕事を転々とした後、行政の就業支援制度を利用して危険物取扱者やボイラー取扱者などの資格を取得し、現在の仕事にありつけた。 「体力的には年々きつくなってきていますが、他の仕事と言ったってもっと安い清掃関係ですよ。しがみつくしかないです」(伊藤さん) ■流動化はもうこりごり 職を失った大企業の社員は中小へと流れ、代わりに生じた余剰人員はより零細な企業や非正規へと漂流していく。結果的にしわ寄せが来るのが、伊藤さんのようなシルバー就労者だ。 「私の職場は、職安だったりシルバー人材センターの紹介を受けた還暦越えの年寄りが多かったのですが、最近は30代ぐらいの若い人も入ってきましたね。もし、解雇規制が緩和されれば、若年世代がもっと入り込んでくることになります。当然、年を食った私たちの仕事が奪われることになりますよね...」(伊藤さん) 日本労働組合総連合会(略称:連合)の「高齢者雇用に関する調査2020」(全国の45歳~69歳の有職者1000名の有効サンプルを集計)の発表によると、60 歳以上の人(400 名)に1日あたりの労働時間を聞いたところ、「8時間」(42.0%)が最も多く、平均は6.8時間。1週間あたりの労働日数では、「5日」(54.5%)が最多だ。伊藤さんのように60歳以降、現役世代とさほど変わりなくフルタイムで働いているシニアは多い。 興味深いのは、同調査で今後、65 歳以降も働きたいと考えている人(780名)に、65歳以降、どのような働き方を希望するか(または希望していたか)聞いたところ、「現役時代と同じ会社(グループ含む)で正規以外の雇用形態で働く」(42.44%)が最も高く、次いで、「現役時代と同じ会社(グループ含む)で正社員として働く」(33.1%)となったことである。伊藤さんはリストラという憂き目に遭ったため、同じ会社に居続けることはできなかったが、多くのシニアは自身が現役時代に勤めていた会社でずっと働き続けたいと考えているようである。 「解雇規制の見直しで雇用の流動化を訴えられても、我々シニアはもう流動化したくないのが本音ですよ。だって流動化しても、もう行く先がないでしょう。私の場合は、平成不況でリストラという雇用の流動化に当たったわけですからもう十分です。ようやくつかんだ今の仕事を続けさせてほしい」(伊藤さん) 進次郎氏の父・小泉純一郎元首相による規制緩和で非正規労働者が増大し、その後の派遣切り問題へと至った。そして、今回のターゲットは正社員。人員整理の余波は川下の末端労働者へとつながっていく。 文/山本優希 写真/自民党