かつては食用、貴重なタンパク源だった 巨大カタツムリと巨大タニシのいま
ジャンボタニシとして知られる「スクミリンゴガイ」
日本にはもう1種、有名な外来軟体動物がいます。それがスクミリンゴガイです。南米原産の淡水性巻貝で、日本では「ジャンボタニシ」の通称で呼ばれています。日本のタニシと比較して身体が大きく、貝殻の大きさは最大80ミリにもなります。水面から伸びる植物の茎や、水辺の壁面などに産みつけられる卵塊の色がド派手なピンク色をしているのが特徴的です。 その巨大な身体から、本種も食用として中国、東南アジア、台湾等に導入されました。日本には1981年に台湾から導入されました。その後、日本各地で盛んに養殖されましたが、淡水巻貝を食べる文化がそれほど定着していない国内では需要が伸びず、結局、廃業する養殖業者が続出し、飼育個体が次々に野外に廃棄された結果、外来生物として日本国内で分布を拡大しました。 本種は雑食性で水中に生える植物や、動物の死体等、何でも食べますが、特に水田で繁殖すると、イネの大害虫となります。そのため、本種は1984年に農林水産省「植物防疫法」という農林害虫を規制する法律で「有害動物」に指定され、農業害虫として駆除対象となり、その後、2012年には「検疫有害動植物」に指定されて、輸入が禁止となりました。 害虫なので、輸入規制は当然な措置と思われますが、規制が決まった当時、その決定に対して落胆の声を上げる人も少なからずいました。実は、スクミリンゴガイは野外で外来害虫として問題になっている一方、近年、本種の体色変異個体がペットとして人気を集めていたのです。 黄色の貝殻を持つスクミリンゴガイは「ゴールデンアップルスネール」、紫色の貝殻を持つものは「バイオレットアップルスネール」などの愛称で呼ばれて、飼育個体が愛好家の間で流通しています。これらの個体は東南アジアで養殖され、日本に輸出されていました。それが法律によって禁止になったので愛好家のなかにはガッカリする人が続出しました。 ところが、この規制は2014年に解除され、今では自由に輸入が出来るようになっています。規制解除の背景には貿易の自由化という国際情勢が深く関わっています。1995年にWTO(世界貿易機構)が設立されて以降、貿易に係る摩擦の撤廃が世界的に唱われるようになり、特に貿易品の検疫に関しても、輸出国に対して不当な非関税障壁とならぬよう、国際ルールが定められています。それがSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)です。 この協定に準じると、すでに国内に生息分布している生物種を検疫対象にすることは、非関税障壁に該当し、自由貿易の原則に反するとされます。つまり例え外来生物でも、国内に蔓延している状態ならば、その外来生物を検疫対象とすることは原則「国際協定違反」とみなされるのです。 もちろん、定着しているからといってすべての外来生物が輸入自由となるわけではなく、有害性が高ければ、輸入国は国内法に準じて検疫対象とすることはできます。その際、国内法発動前に、検疫対象とする種をWTOに通報することが加盟各国に義務づけられています。この通報によって貿易相手国に不利益が生じなければ何も問題は無いのですが、農業害虫のように農産物の輸出入に付随する種については、場合によっては貿易相手国どの間に利害が生じることになります。 そのため、近年、日本の植物防疫法においては、すでに日本国内に蔓延している農業害虫を検疫対象から外す傾向が強まって来ています。そうした流れの中で、スクミリンゴガイについても、一旦は輸入禁止にしたものの、国内における定着分布があまりに広いため、国際貿易ルールに配慮して、再び輸入自由となったと考えられます。