予測不可能な航空機の「乱気流」事故、航空会社の遭遇は増加、数十年で3倍の可能性も【外電】
ロンドン発シンガポール行きのシンガホール航空が乱気流に見舞われ、英国人男性が死亡し、数十人が負傷した事故は、改めて不安定な空気の流れの中を飛行する危険性を浮き彫りにした。 乱気流による死亡事故は非常に稀だが、負傷者が出ることは珍しくない。航空会社からの乱気流遭遇の報告は増加しており、一部の気象学者は、世界的な気候変動が飛行条件を難しくしていると指摘する。 乱気流とは、本質的には予測不可能な方法で移動する不安定な空気のことだ。その中でも最も危険なタイプは晴天乱気流。前方の空がクリアでも突然発生する。ジェット気流と呼ばれる高層の空気の流れ、またはその近くで最も頻繁に発生。原因は、互いに接近する2つの巨大な気団が異なる速度で移動、速度の差が大きい場合に、大気はその緊張に耐えられなくなり水の渦のような乱流パターンが発生すると言われている。
米国で発生した航空事故、乱気流関連は3分の1以上
米国の国家運輸安全委員会(NTSB)の報告によると、2009年から2018年にかけて米国で発生した航空事故の3分の1以上は乱気流に関連。そのほとんどは1人以上の重傷者を出したものの、飛行機には損傷はなかったという。 また、NTSBの統計によると、2009年から2022年の間に、乱気流が原因による揺れで少なくとも2日間の入院治療が必要な重傷を負った人は163人。 そのほとんどは客室乗務員だった。 長年、乱気流を研究してきた米国科学財団国立大気研究センターのプロジェクトサイエンティスト、ラリー・コーンマン氏は「乱気流に遭遇して骨折などの軽傷を負うことは珍しいことではないが、大型旅客機での死亡事故は非常にまれ」と話す。 国際航空運送協会(IATA)の運航・技術業務担当ディレクター、スチュアート・フォックス氏によると、大手航空会社から最後に晴天乱気流による死亡事故が報告されたのは1997年。小型機では数件の死亡事故が報告されているという。
晴天乱気流は回避できるのか? 気候変動の影響は?
パイロットは、乱気流を避けるために気象レーダーなどさまざまな方法をとる。 時には雷雨を単視認し、それを回避して飛ぶこともある。 しかし、元航空パイロットで安全コンサルタントのダグ・モス氏は、晴天乱気流は「まったく別物」だという。「事故が起きるまでは非常に平穏で、不意を突かれるため、それは壊滅的なものになる可能性がある」と話す。 現代の航空機は、どんな乱気流にも耐えうる十分な強度を持っている。 頭上の収納棚などの客室エリアは外観上の損傷を受ける可能性があるが、「航空機の構造に影響はない」とモス氏は明かす。 乱気流遭遇の増加は、気候変動の影響の可能性があるとを指摘する科学者もいる。エンブリー・リドル航空大学のグイン氏は、気候変動によってジェット気流が変化し、ウィンドシア(風速や風向きの差)が上昇することで、空気の乱気流が促進される可能性があると説明する。 英国レディング大学の大気科学教授ポール・ウィリアムズ氏と彼の研究チームは最近、北大西洋における激しい晴天乱気流が1979年以来55%増加していることを突き止めた。研究チームは、今後、ジェット気流の激しい乱気流が数十年間で2倍か3倍になる可能性があると警告している。 一方、国立大気研究センターのコールマン氏は、航空交通量が増加してるために、それだけ乱気流に遭う航空機の数も増えると指摘する。
乗客の安全を守るためには
航空会社は、これまで乱気流による事故を減らす努力を続けてきた。専門家は、乱気流の予測は難しいが、負傷を避けるためには、とにかく可能な限りシートベルトを締め続けることだと強調する。グイン氏は「絶対確実な予防策はないが、シートベルトを着用することで重傷を回避できる可能性が大幅に高まる」と話す。 ※本記事は、AP通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。
トラベルボイス編集部