「エリートばかり出世する企業」ほど衰退していく皮肉な理由
成果ばかり評価すると、負け癖がついた組織になる
衰退する組織の2つ目の特徴が、「間違わない人が出世する」という構造です。 個人の動機づけには、「業績目標アプローチ」と、「学習目標アプローチ」があります。業績目標アプローチでは成果が、学習目標アプローチでは挑戦による学びが評価されます。 どちらのほうが最終的に成果を上げるかというと、学習目標アプローチである、ということがこれまでの研究でわかっています。 学習目標アプローチでは新しい学び自体に価値があると考えるので、挑戦に前向きになり、メンバーが自己効力感を持って努力し続けることができるのです。 一方の業績目標アプローチでは、成果を出せば称賛されますが、肯定的な評価を得るために上手くできないことは避けるようになってしまいます。結果として、業績目標アプローチだけでは、負け癖がついた組織になってしまう恐れがあるのです。 これをもう少しカジュアルに整理したのが、キャロル・ドゥエック氏の硬直マインドセットと成長マインドセットです。 硬直マインドセットとは、「自分の能力は生まれつきのもので、今後も変わらない」とする考え方です。つまり、できる人は最初からできるし、できない人はいつまでもできない、と考えます。この考え方が加速すると、新しいことはやらない、できることしかやらない、ということになってしまいます。 これに対し、成長マインドセットとは、自分の能力は努力や経験によって高められるという考え方です。最初から完璧にできなくても、「自分にはのびしろがあるから、精一杯努力してみよう」と考えて挑戦することができます。
エリート化が招いた「マイクロソフトの停滞」
ところが、「間違わない人が出世する」組織では、「未知のことや上手くいかないことに挑戦しながら成長していく」という成長マインドセットが消えてしまいます。 マイクロソフト社は、GAFAの台頭を許してしまった停滞期の原因を、「マイクロソフト社が世界的な大企業になり、『間違わないエリート』が入るキャリアになってしまったからだ」と分析しています。 「あの企業に入れば『優秀な人』と見られる」と認識され、間違わない人が、間違いのないキャリアとして入る企業になると、成長マインドセットが消えていく、というんですね。 2014年に3代目CEOに就任したサティア・ナデラ氏は、社内に成長マインドセットがないことに気がつき、成長マインドセットを推進することで業績を回復させた、と言われています。もちろんそれだけでマイクロソフトが復活を遂げたわけではないと思いますが、実はこれ、私の実体験からしても、腑に落ちる話でもあります。 前職のDeNAでの体験ですが、モバゲー事業が当たり、企業が大きく成長して「就職人気ランキング」の上位にランクインするようになると、外資コンサル出身者のような、ピカピカの経歴の人たちが入ってくるようになりました。細かい論点を指摘できる人、誰もが納得できる説明が上手な人、といった、いわゆる「頭のいいエリート」たちです。 そうすると、新規事業としてあがってくるものが、ロジックがとてもきれいなものばかりになっていきました。過去のIR情報や市場データをもとに説明できるので、誰から見ても「正解」のように見えるんですが、実はそうやって説明できる事業は模倣性が高いので、競合も多く、大きく当たりにくいんですよね。 本来、新規事業というのは、他社がまだ気づいていない領域を攻めることです。不確実性が高い領域を攻めなければならないので、「合理的判断」とは異なる「決断」が必要になります。しかし、間違わない人、説明が上手な人が出世するような組織では、データ分析やロジックに基づいた合理的判断しかできません。これは優等生企業の罠だと思います。 そもそも、決断慣れした人材なんてほとんどいません。「イノベーション人材」を採用しても、「間違えたくない」という意思決定が行なわれる文化の中に入ってしまうと、本来の角を削がれて、「間違えたくない人」になってしまいます。 いくらかっこいいミッション・ビジョン・バリューを策定して「挑戦」をスローガンに掲げても、いくらコーチングで部下の主体的な行動を促そうとしても、「挑戦している背中を見せたこともないのに挑戦させる」ことは不可能なのです。