「エリートばかり出世する企業」ほど衰退していく皮肉な理由
「心理的安全性」が 「言ってはいけない」を加速
ダブルループ学習ができる組織になるために重要なのが、外部環境の変化を察知したときに、思い切って「これまでのやり方が通用しなくなっていませんか」と言える「心理的安全性」です。 ところが、日本ではこの「心理的安全性」が、シングルループ学習を加速させている面があります。 「それを言ったら場の空気が悪くなるから言ってはいけない」「誰かが傷つくかもしれないから、言わないほうがいい」といった、「周りを傷つけないための配慮」が、「心理的安全性」として受け止められてしまい、むしろ「言ってはいけない雰囲気」を加速させているのです。 そもそも、「心理的安全性」が本来の意義を発揮するためには、「心理的柔軟性」が必要です。心理的柔軟性とは、自分の考えが絶対的に正しいという前提に立つことなく、余白や柔軟性を持ってフラットに考えることです。 心理的柔軟性があると、何か課題が発生したときに、「これまでの前提や信念が、いまの状況に合わなくなっているのではないか」「自分が間違っているかもしれないから、異なる意見を聞いてみよう」といった考え方をすることができます。 ですから、心理的柔軟性の高い人々で構成された組織では、「私も間違っているかもしれないけど発言してみよう」という心理的安全性が発動するのです。 逆に、心理的柔軟性のない組織では、心理的安全性は生まれません。「一応話は聞くけど、どうせ私の考えが正しい」と考えているような人が多い組織では、「なんでも言っていいよ」と言われたところで、「どうせ聞く気もないくせに」という諦めにつながってしまうからです。 その状況下で、「うちの社員は危機意識が足りない」や「我々は変わらなければならない」と発言しても、社員としては「まずは、そっちから変わろうとしてください」となってしまいます。 特に、組織のトップがカリスマ創業者やそれに連なるオーナー家、あるいは新卒からの生え抜きばかりの場合、この傾向が加速します。カリスマ創業者やオーナー家の場合、その成功体験と権力には誰も何も言えませんし、経営陣が生え抜きばかりだと、外部目線がなくなり、自分たちのやり方に疑いを持ちにくくなるからです。 これは、レガシー系の大企業ではもちろん、新興企業でも起こり得ることです。むしろ、人の入れ替わりが激しい新興企業では、生存者バイアスや創業メンバーへの権力集中が生まれやすく、ダブルループ学習が阻害されやすくなります。そうなると、組織の成長は止まってしまうのです。