【まとめ】絶対感動!ヒューマンドラマ映画37本!
人の尊厳を訴える巨匠の持ち味が炸裂!『わたしは、ダニエル・ブレイク』
個を踏みにじる社会状況に異を唱え続ける巨匠ケン・ローチが、イギリス北東部に暮らす一人の男に焦点を当て、その生き様を力強く描いたヒューマンドラマ。主人公ダニエルは心臓の病のため建設作業員としての仕事が続けられずにいる。そのため国からの給付を得ようとするも、得られた回答は「条件を満たしていません」の一点張り。問い合わせ電話は気が遠くなるほど待たされ、オペレーターの対応は何ら要領を得ない。役所へ足を運んでも理不尽な対応ばかりで話が前に進まない。そんな中、同様に役所で途方に暮れる母子との交流が生まれ……。 ローチ演出では、いつも俳優に状況説明と指示のみを与え、あくまで各々の自主性に任せてカメラの前で演じさせるのだとか。かくもドキュメンタリー的なリアリズムを貫きつつ、社会に屈しない人間の矜恃がじわりと染み出し、いつしか観る者の魂を大いに振るわせる。この不条理かつ冷たい世の中で人はいかに振る舞えるのか。切実な問題提起からこれほどまでに温かく気骨あるドラマを生み出せるのはローチ監督だけ。カンヌ映画祭最高賞に輝く傑作である。
紛争により住民同士が敵となる!『ベルファスト』
少年期を北アイルランドのベルファストで送った映画人ケネス・ブラナーが万感を込めて描く半自伝的な一本。’69年当時、かの地は北アイルランド紛争によって、プロテスタントとカトリックの住民同士の衝突が絶えなかった。カトリックの多い地域で暮らすプロテスタント一家の少年バディにとってみれば、どちらも善き隣人であることに変わりはない。しかし強硬派による暴力はとどまるところを知らず、そんな日々から逃れようと一家はイングランドへの移住を考えはじめる……。 バリケードを張りめぐらし、夜通し火を絶やさず交代で見張りを続ける住民たち。いつ何時、怒れる群衆が雪崩れ込んでくるかわからない緊張と恐怖が充満する一方、少年の暮らしは子供ながらの瑞々しい感性の発露と、目と心を楽しませるカルチャー体験でいっぱいだ。その一つ一つがブラナーの礎なのだと考えると無性に胸が熱くなる。さらに忘れがたいのは慈愛に満ちた祖父母の存在だ。「さあ行きなさい。振り返らないで。愛してる」。ジュディ・デンチが放つ力強く崇高なセリフが、モノクロームの世界を宝石のごとく輝かせている。
文=斉藤博昭、渡邉ひかる、熊谷真由子、相馬学、牛津厚信