仁和寺決戦を制した藤井聡太竜王のスナイパー二枚角…「視覚の外から寄せられた」佐々木勇気八段が脱帽した規格外の射程[指す将が行く・竜王戦第3局]
藤井聡太竜王と佐々木勇気八段が1勝1敗で迎えた第37期竜王戦七番勝負第3局は京都市の世界遺産・仁和寺での一戦で、藤井竜王が逆転勝ちを収めた。対局を優位に進めていたのは佐々木八段だったが、混戦模様となった終盤で力を発揮したのは藤井竜王で、先の先まで読みを入れた二枚角での寄せを決めた。逆転負けの佐々木八段は対局直後、がっくりとうなだれ「視覚の外から寄せられた」と小声で発した。(デジタル編集部・吉田祐也) 【写真】封じ手の封筒にサインする藤井竜王
佐々木八段の「秘策」ダイレクト向かい飛車
壮麗な仁和寺の対局室で第3局は始まり、後手番の佐々木八段は早くも2手目に趣向をみせた。居飛車党の佐々木八段が△3四歩と角道を開けたのだ。
控室でモニターを見つめていた畠山鎮八段は「角道ですか。佐々木八段に用意の作戦がありそうです」と話した。佐々木八段は角交換型のダイレクト向かい飛車を採用した。対抗形の振り飛車側を指すのは7年ぶりとなる。「秘策ですね」と畠山八段。藤井竜王はバランス型の布陣をとり、佐々木八段は銀冠に囲って厚みを主張する駒組みとなった。
夕方に大音量の退館アナウンス
午後4時半過ぎ、佐々木八段が盤側に何かを語りかけていた。退館をうながす仁和寺のアナウンスの音量が大きく、しかも複数言語で長い時間流れて気になると。「明日はアナウンスを止めてほしい」という要望が控室に伝わった。立会人の福崎文吾九段は「(滝を止めさせた)加藤一二三先生を思わせるね」と、最初は冗談交じりに話していたが、仁和寺の僧侶らが血相を変えて控室に入り、真剣な協議が行われた。
音に関する佐々木八段の指摘は的確なものだった。もし対局2日目の秒読みの中で、アナウンスが流れたとなれば、集中力がそがれてしまう。仁和寺は退館をうながすアナウンスが流れてしまったことを両対局者にわびた。
藤井竜王、封じ手の局面は「攻めがつんのめって、すでに苦しい」
さて、盤上は研究十分とみられる佐々木八段がテンポ良く指し進め、初日は持ち時間の温存にも成功した。藤井竜王は「出だしから想像していない展開になりました」と局後に明かした。佐々木八段の振り飛車には意表を突かれたようだ。後手陣の厚みを崩すべく、▲9六歩(第1図)と端攻めをみせたところで封じ手を迎えた。