仁和寺決戦を制した藤井聡太竜王のスナイパー二枚角…「視覚の外から寄せられた」佐々木勇気八段が脱帽した規格外の射程[指す将が行く・竜王戦第3局]
藤井竜王は2分を使って▲7五桂(第6図)を打った。読み切った手つきだった。第6図から、△7五同金でも、△7四金でも、△7四銀でも後手玉への詰めろは解除できない。かなり前から寄せの構図を描き、精密な読みで全ての変化を見切る。大盤解説会場では、詰将棋の名手である北浜八段が詰み筋を読むも、すぐには駒を動かせなかった。あらゆる棋士を凌駕(りょうが)する終盤力を見せた藤井竜王が、逆転で第3局をものにした。
終局後、ソファに倒れ込んだ佐々木八段…大盤を前に藤井竜王と感想戦
囲いの連結をスナイパーの角で分断する。藤井竜王は他の棋士よりも圧倒的に早い段階で寄せの構図を描くことができ、射程も規格外だ。終局後、プレミアム解説会に向かった両対局者。会場の外にあるソファに倒れ込んだ佐々木八段は「角から角(▲4一角~▲5四角)が見えなかったし、その先の受けに対して▲7五桂の決め手も用意している。視覚の外から寄せられた」と声を発し、うなだれた。
両対局者入場の声がかかり、起き上がった佐々木八段は大盤解説会場に入った。次局への抱負などを言い終えた直後、佐々木八段は「3択の局面どうでしたか」と駒を手にし、藤井竜王も応えた。大盤を用いた感想戦が阿吽(あうん)の呼吸で始まった。壇上の久保利明九段は静かに見守った。火照っている佐々木八段に、神妙な表情の藤井竜王。2人だけの空間が、そこにはあった。5分という時間を長く、いとおしく感じた。