仁和寺決戦を制した藤井聡太竜王のスナイパー二枚角…「視覚の外から寄せられた」佐々木勇気八段が脱帽した規格外の射程[指す将が行く・竜王戦第3局]
封じ手の封筒にサインをした藤井竜王は「攻めがつんのめっていて、すでに苦しい」と感じていた。駒を片付け終え、両対局者が去った対局室で福崎九段が持ち前のサービス精神を発揮した。プレミアムプランなどで封じ手の場面を見学したお客さんらに、将棋界伝統の所作を丁寧に説明した。「少しでも満足して帰っていただきたくて」と福崎九段は語った。
悩ましいタイミングで3択迫る歩の成り捨て…藤井竜王の勝負手
対局2日目の午前は藤井竜王が攻め、佐々木八段が受ける展開に。佐々木八段は「先手の攻めは少し細く、ちょっといいと思っていた」と判断していた。控室で検討していた北浜健介八段は「馬が手厚いので、後手を持ちたい」と話していた時、藤井竜王は▲9二歩成(第2図)と指し、揺さぶりをかけた。「これは悩ましいタイミング」と北浜八段はうなった。
歩の成り捨ては、結果的によい勝負手となった。実際、佐々木八段は悩んでいた。「△同香も△同銀も△同玉もある」と局後は率直に語っていた。上部の厚みを保つ△9二同香も有力と感じたものの「指せるのは一手だけ」と割り切り、第2図から△9二同銀で、先手の攻めを呼び込む方針をとった。
難解な玉頭戦のさなか、両対局者の心癒やした庭園の眺め
難解な玉頭戦のさなか、両対局者は仁和寺の景色に癒やされていた。佐々木八段は「写真などで見てきて楽しみだった」という庭の眺めを満喫した。対局初日から、縁側に腰を下ろし、世界遺産の風景を眺めた。仁和寺の宸殿(しんでん)にとけ込む勇気八段。縁側に座る棋士を初めて見たが、どことなく「昭和」を思わせ、懐かしさを覚えた。2日目も、同じように座って、庭を眺める時間帯があった。
仁和寺での対局は4度目となる藤井竜王は、庭の風景を気に入っている。「本局では全部で1時間くらい、庭を眺めていたと思います」と明かした。考慮の合間に席を立ち、庭や通路から見える木々など、風景を楽しんだ藤井竜王。仁和寺の若い僧侶は偶然、宸殿の縁側に立つ藤井竜王の姿を見かけたという。「なんとも神々しい考慮姿でした。仏よりも尊く感じてしまった瞬間がありました」とユーモアを交えて話した。